artscapeレビュー
《デ・ヤング美術館》《リージョン・オブ・オナー美術館》《アジア美術館》
2018年04月15日号
[アメリカ、サンフランシスコ]
近代以前を展示するサンフランシスコの3つの美術館を訪れた。
ゴールデン・ゲート・パーク内の《デ・ヤング美術館》は、1894年の万博のパヴィリオンが起源であり、アメリカ美術史やアフリカなどのコレクションをもつ。企画展は、アフリカ系の現代美術やマオリ族の肖像画を開催しており、前者はアナツィなども参加していたが、国内だとアール・ブリュット的な作品が多い(それにしても展示室の天井が高い!)。かつてはエジプト様式だったが、ヘルツォーク&ド・ムーロンの設計で生まれ変わった美術館は、皮膜、造形、空間、自然の挿入、塔からの眺めはどれも素晴らしく、現代的である。特に展示室がホワイト・キューブを壊すことなく、建築の空間になっていることに感心した。オセアニアやアフリカ・セクションの什器デザインも建築と連動している。訪問時はフロリストとのコラボレーションにより、展示作品へのオマージュとなるフラワーアレンジメントを、ほぼ全館に設置していた。絵や彫刻の色や形を植物によって再解釈する企画だが、生ものを美術館に持ち込むのを許可するとは大胆な試みである。
ゴールデン・ゲート・ブリッジも見えるリンカーン・パークの《リージョン・オブ・オナー美術館》は、いわゆる丘の上の古典主義建築による美の殿堂だった。ロダンの彫刻ほか、古代から近代まで西洋美術を所蔵し、コの字プランで時代順にたどる。特徴的なのは、絵画と同時代の家具、調度品を一緒に展示し、部屋ごとに過去のインテリアの展示も行なうケースもあることだ。地下の企画展「カサノバ」は、18世紀にイタリア、フランス、イギリスなど西欧各地を放浪し、脱獄もした伝説の人物をネタに、同時代のブーシェ、フラゴナール、ホガース、カナレット、ピラネージ、衣装と風俗を紹介する。ほかにも小企画の「パリ1913年」展は、ドローネーらを紹介していた。そして常設では、コミッションワークによって現代アートも介入する。ガエ・アウレンティがリノベーションを手がけ、古典主義の図書館を《アジア美術館》に再生させた空間でも(やや単純化されてはいるが、彼女が担当したバルセロナの美術館も想起させる)、充実した古美術のコレクションと現代美術の対話を組み込み、横断企画は増えている。
2018/03/16(金)(五十嵐太郎)