artscapeレビュー
第11回JIA東北住宅大賞2017 現地審査ツアー
2018年04月15日号
会期:2018/03/06〜2018/03/08
[宮城県、青森県、岩手県、福島県]
せんだいデザインリーグが終わると、東北住宅大賞の現地審査のツアーに出かけるのが恒例となった。今年からは、これまで10回の審査を一緒に担当した古谷誠章に代わり、飯田善彦とともに行脚し、3日間で10作品を訪れた。初日は仙台市内で3つ、宮城県内でもう2つをまわる。2日目は青森で1つ、岩手で1つ、郡山で1つ、そして最終日は福島で2作品という強行軍だ。第11回の東北住宅大賞に選ばれたのは、松下慎太郎によるいわき市の《IENOWA》である。住宅地に重なりあう複数のフレームを設定し、さまざまな領域をつくるものだが、竣工写真よりも施主の私物が入った状態のほうが、場の差異が強調され、さらに魅力的だった。折半天井の大屋根の下に、リノベーションによってポストモダン的な家型を挿入したようにも見えるのも興味深い。以前、東北住宅大賞の審査で見学した同じ設計者の住宅《RICO》とも雰囲気が似ているが、もっと開放的なデザインに進化している。
優秀賞は4作品が選ばれ、残りの5作品は佳作となった。以下に優勝賞の作品に触れておく。洞口苗子による岩沼の《複合古民家実験住宅》は、築60年の古民家を購入して救い、カラフルな二世帯住宅+(二階の秘密基地的)設計事務所に改造し、緑道に接する母の美容室を増築したもの。20代だから東北住宅大賞では最年少であり、これまでにないセンスのリノベーションだった。齋藤和哉による《八木山のハウス》は、中央のホールから四方向に傾斜屋根をもつが、それらの中心をテラスとして掻き取り、ホール上部の四方向に開口を設けることで、内部と外部が絡む、興味深い空間の形式を実現する。佐藤充が設計した《北山の家》は、線路沿いの敷地ゆえに、箱型の住宅で防御しつつも、室内に入ると、二層吹き抜けを外周にめぐらせ、開放的な空間だった。そして岩堀未来+長尾亜子による《矢吹町中町第二災害公営住宅》は、ダブルスキンの「縁にわ」をもち、大開口により南北に視線が貫く。ほかの被災地とは違い、雁行する二階建ての長屋になっており、街並み、植栽、ランドスケープ、環境を意識し、将来の町営住宅への転換も射程に入れたデザインだった。
2018/03/08(木)(五十嵐太郎)