artscapeレビュー

渡邊耕一「Moving Plants」

2018年04月15日号

会期:2018/01/13~2018/03/25

資生堂ギャラリー[東京都]

スケールの大きな思考と実践の成果である。渡邊耕一は「15、6年前」に北海道を撮影している時に目にした、巨大なオオイタドリの群生に興味を惹かれ、その来歴をリサーチし始める。その結果、驚くべきことがわかってきた。イタドリ種の植物は日本では普通に見られるが、ヨーロッパやアメリカでは外来種であり、江戸時代に来日したフォン・シーボルトによって種子が持ち込まれ、「侵略性植物種」として各地にはびこることになったのだ。渡邊はこの「名も無き雑草」の200年以上にわたる遥かな旅の足跡を辿り、イギリス、オランダ、ポーランド、アメリカなどで、イタドリが生えている風景を撮影し続けた。本展はその成果をまとめて大阪のThe Third Gallery Ayaで2015年に開催された同名の個展の拡大版である。

渡邊の撮影のやり方は、正統なドキュメンタリー写真のそれだが、写真だけではなく、標本や古文書などの原資料、テキスト、スライド・プロジェクションなども加えたインスタレーションはとても現代的に洗練されている。発想の鮮やかさはもちろんだが、それを粘り強い調査を積み重ねて丹念に編み上げていくことで、展覧会としてもよくまとまったものになっていた。イタドリのある見慣れた眺めが、この写真展を見たあとでは、まったく違ったふうに目に映るのではないだろうか。写真による新たな世界認識のあり方を提示しようとする意欲的な試みといえる。なお、2015年の展覧会に合わせて、青幻社から同名の写真集も刊行されている。

2018/03/06(火)(飯沢耕太郎)

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