artscapeレビュー

佐藤麻優子「生きる女」

2018年04月15日号

会期:2018/03/24~2018/03/25

VACANT[東京都]

1993年生まれの佐藤麻優子は、最も若い世代の写真家のひとりである。2016年に第14回写真1_WALL展でグランプリに選ばれ、2017年に個展「ようかいよくまみれ」を開催した。その時の作品は、主に同性の友人たちをフィルムカメラで撮影したスナップショットで、どこか閉塞感の漂う時代の空気感が、まさに身も蓋もない画像であっけらかんと定着されていた。

今回のVACANTの展示では、カメラを中判カメラに替えることで画像の精度を高め、アイランプによるライティングも積極的に使うことによって、意欲的に表現世界を拡大しようとしている。チラシに寄せた文章に「性差が曖昧にもなり、しかし相変わらずはっきりともしている現代で、女性性として生きている人がどんなことを考えているのかどんな姿をしているのか、見たくて知りたくて、写真にして話を聞きました」と書いているが、これまでの被写体の範囲を超えた女優や、イラストレーターなどの他者も「生きる女」として取り込むことで、同時代のドキュメンタリーとしての強度がかなり高まってきている。

ただし、写真作品としての完成度が上がることは、彼女にとって諸刃の剣という側面もありそうだ。以前の写真は、技術的に「下手」であることが、逆にプラスに作用していたところがあった。ぎこちなく、不器用なアプローチが、逆に現代社会を覆い尽くす妖怪じみた「よくまみれ」の状況を、ヴィヴィッドに浮かび上がらせていたのだ。だがどんな写真家でも、写真を撮り続けていくうちに、「巧く」なってしまうことは避けられないだろう。今回のシリーズのようなテンションを保ちつつ、あの魅力的な何ものかを呼び込む「隙間」を失くさないようにしていってほしいものだ。

2018/03/25(日)(飯沢耕太郎)

2018年04月15日号の
artscapeレビュー