artscapeレビュー

ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ

2018年04月15日号

会期:2018/04/07~2018/06/10

神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]

ダネーゼの製品や美しい絵本、あとは《小ざるのジジ》。私が知っているブルーノ・ムナーリといえばこのくらいだった。しかし本展を観て、それはムナーリのほんの一面にすぎないことに気付かされた。なにしろ、本展は日本初公開作品だけで約150点もある「日本最大の回顧展」である。画家、彫刻家、グラフィックデザイナー、インダストリアルデザイナー、著述家といった、さまざまな顔を持つムナーリの思考をたどりながら、ムナーリを立体的に浮かび上がらせる内容となっていた。初日のレセプションに招かれた画家の渡辺豊重がムナーリを評して「美術でこれだけ遊んだ人はいない」と発言したが、まさにムナーリは多くの“実験”を通して遊んだのではないかと思えてくる。

ムナーリは、イタリアの前衛美術運動「未来派」の一員となり、抽象絵画を発表するところから活動が始まる。まずムナーリの抽象絵画を観る機会自体が初めてで、初っ端から新鮮な驚きをもたらした。その後、ムナーリは絵画に動きを取り入れることを思い付き「役に立たない機械」を発表する。これはいわゆるモビールなのだが、空気のわずかな流れを動力に一定の動きを繰り返すにもかかわらず、何も生産しないということから、この名を付けたという。また1枚の紙を折り曲げてつくった旅先に持ち運べる「旅行のための彫刻」や、座面が極端に斜めに傾いた《短い訪問者のための椅子》、フォークの歯を曲げて人のようなジェスチャーに見立てた「おしゃべりフォーク」など、ムナーリの実験的精神に基づいた遊びは尽きることがない。

《役に立たない機械》(1934/1983)

特定非営利活動法人市民の芸術活動推進委員会 © Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari

なかでも秀作は子どものための絵本だろう。ムナーリは絵本において文字と絵のみならず、ページごとに紙のサイズを変えたり、フリップを付加したり、トレーシングペーパーを採用したりと、紙自体も表現手段として積極的に用いた。絵本以外にも、文字と絵すらない、さまざまな形に断裁された色紙を綴じた《読めない本》も有名だ。ムナーリは、線や色、形などの美術を構成する要素は、文字と同じように事物を伝えられると考えていたという。何事も固定概念にとらわれていてはならない。いつでも遊び心を大切に、人間の五感をフル回転して事物に接せよと、ムナーリに教えられているような気持ちになった。

《読めない本》試作(1955) パルマ大学CSAC © Bruno Munari. All rights reserved to Maurizio Corraini srl. Courtesy by Alberto Munari


公式ページ:http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/exhibitions/2018/munari/index.html#detail

2018/04/07(杉江あこ)

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