2019年12月01日号
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artscapeレビュー

ウィリアム・マルクス『文学との訣別──近代文学はいかにして死んだのか』

2019年08月01日号

訳者:塚本昌則

発行所:水声社

発売日:2019/03/20

ここのところ、ウィリアム・マルクス(1966-)の著作の刊行が続いている。具体的には、一昨年の『文人伝』(本田貴久訳、水声社、2017)を皮切りに、今年に入ってからは本書『文学との訣別』と『オイディプスの墓』(森本淳生訳、水声社、2019)の2冊が立て続けに翻訳・刊行された(さらに付け加えるなら、同じ版元から昨年刊行された三浦信孝・塚本昌則編『ヴァレリーにおける詩と芸術』にもこの人物のヴァレリー論が収録されている)。今年4月にコレージュ・ド・フランス教授に選出されたこの比較文学者の書物が、こうして立て続けに日本語で読めるようになったことをまずは喜びたい。

本書『文学との訣別』は、近代ヨーロッパで生じた「文学」の拡張・自律・凋落の過程を、数々のエピソードとともにたどった魅力的な書物である。著者は、文学を同時代の社会状況に還元する単純な社会反映論からも、同じくその不変性を無自覚に措定する文学論からも等しく距離を取り、「文学」がこの間に被ってきた変遷をあくまでも具体的な場面に即して跡づける。18世紀末のヴォルテールの凱旋を象徴的な始まりとする文学への崇拝は、19世紀における大衆からの断絶を経て、20世紀に急速な価値の下落をみるに至った──おそらくこうしたストーリー自体は、さして新味のあるものではない。しかし、本書の何よりの美点は、文学の「自律性の獲得」(第3章)や「形式への埋没」(第4章)といった各場面を、さまざまな作家を例に綴っていく明晰かつ魅力的な文体にこそあるだろう。近代の文学史、ひいては芸術史の流れをあらためて振り返りたいと考える読者にとって、おそらく本書は最適な書物のひとつである。

2019/07/22(月)(星野太)

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