artscapeレビュー
宮本隆司 いまだ見えざるところ
2019年08月01日号
会期:2019/05/14~2019/07/15
東京都写真美術館[東京都]
展示はシリーズごとに5つに分かれている。まずネパール北部の農村ロー・マンタンを撮ったシリーズ。高地で乾燥しているせいか白黒のコントラストが強く、土壁の建物や路地ばかりで人がほとんど写っていない。次が、香港やバンコクやホーチミンなどアジアの都市風景。こちらは人や物があふれていて濃密な空気が漂っている。次に、最初の写真集『建築の黙示録』から、サッポロビール恵比寿工場の解体現場。これは写真美術館のある恵比寿ガーデンプレイスの開発前の姿。このころ宮本は、すぐ近くの再開発を見下ろすマンションに住んでいた。その次が東京スカイツリーを撮ったピンホールカメラのシリーズ。縦長の画面の上半分にスカイツリーを電信柱とともに写した奇妙な写真だ。あれ? 1点だけ電信柱のみでスカイツリーが写っていない写真があるが、これは徳之島の電信柱。
ここまでが前半で、後半はすべて徳之島を撮った《シマというところ》。宮本の両親は徳之島の出身で、彼自身も生後4カ月から2歳までこの島で暮らしたそうだ。もちろん記憶はないが、だからこそある程度年がいってから気になり始めたのだろう。近年はしばしば島を訪れるという。その写真には、海岸や田畑、ソテツ、じいさんばあさん、お祭り、ウミガメの産卵などが写されていて、明らかに前半の写真とは違う。「廃墟の宮本」像が崩れてしまいかねないほど違う。なにが違うかというと、たぶん温度だ。シマとは島ではなく、小さな共同体のこと。だからぬるい。写真がぬるいのではなく、ぬるさを写している。そのぬるさは幼少期の身体を包んでいた空気のような、あるいはひょっとして、羊水のようなぬるさかもしれない。
2019/07/14(日)(村田真)