artscapeレビュー

鈴木敦子『Imitation Bijou』

2019年08月01日号

発行所:DOOKS

発行日:2019/06

「TOKYO ART BOOK FAIR 2019」で目についた一冊。鈴木敦子は福井県在住の写真家だが、携帯電話のカメラで折に触れて撮影した写真を、写真集にまとめた。写っているのはごく身近で些細な経験であり、その意味では、ありがちな「日常スナップ」に見えなくもない。Instagramにアップされていてもおかしくない写真もたくさんある。だが、目に入ってくる事物を捉える眼差しの角度とタイミングに独特のバイアスがかかっていて、写真集のページをめくるうちに、その世界に誘い込まれていく。タイトルの『Imitation Bijou』というのは「模像宝石」という意味だそうだが、写真の内容にぴったりしている。安っぽいけれども切実な、どこか悲哀感を感じさせる輝きが、どの写真にも宿っているのだ。写真の選択と配列が的確ということだろう。

特筆すべきは相島大地によるデザインで、文庫本とほぼ同じ大きさの、小ぶりなサイズにしたのがうまくいった。小さな経験の集積に、小さい写真集が見合っている。通常版のほかに、アクリルのケースに入れた特装版(30部限定)もあるのだが、こちらはプリントが1枚つく。こういう丁寧な造りの写真集を見ていると、日本の写真家、出版社、印刷・製本業者が長年にわたって積み上げてきた写真集制作のクオリティの高さが、揺るぎないものになりつつあることがわかる。いま一番大きな問題は、せっかく完成したいい写真集を、どうやって読者に届けていくのかということだろう。写真集流通の回路作りが、より必要になってきている。

2019/07/15(月・祝)(飯沢耕太郎)

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