artscapeレビュー
藤原更「Melting Petals」
2019年08月01日号
会期:2019/06/14~2019/07/13
EMON PHOTO GALLERY[東京都]
名古屋在住の藤原更は、これまでEMON PHOTO GALLERYで個展を2回開催してきた。「Neuma」(2012)では蓮を、「La vie en rose」(2015)では薔薇を題材とした作品を発表してきたが、今回は芥子の花を撮影している。個展のために滞在していたパリで、彫刻家の夫婦に「秘密の花園」に誘われたことが、本作「Melting Petals」制作のきっかけになった。手招きをしているように風に揺らぐ赤い花を見て、「花に促されるままにドアをあけ、踏み出した」のだという。
前作もそうなのだが、藤原は花をストレートに提示するのではなく、プリントに際して操作を加えている。今回は、ピグメントプリントの表面を剥離させ、紙やキャンバス地に画像を転写した。そのことにともなう、予測のつかない画像の色味やフォルムの変化を取り込んでいるところに、彼女の作品の特徴がある。しかも、最大約1.5m×1mの大きさに引き伸ばされることで、真っ赤な芥子の花は空中を浮遊する奇妙な生き物のように見えてくる。花々に内在する生命力を解き放つためにおこなわれるそのような操作は、ともすれば装飾的で小手先のものになりがちだ。だが藤原の場合、撮影の段階から最終的なプリントのイメージを明確に持っているので、画像の加工に必然性と説得力を感じる。
これで「花」のシリーズが3作品揃ったので、そろそろまとめて見る機会がほしい。より規模の大きな展覧会か、作品集の刊行を考えてもよいのではないか。
2019/06/29(土)(飯沢耕太郎)