artscapeレビュー
水野里奈「思わず、たち止まざるをえない。」
2019年08月01日号
会期:2019/07/12~2019/07/28
ポーラ ミュージアム アネックス[東京都]
見て楽しめる絵画というのは、ありそうで意外と少ない。あっても中身が薄いとか思想性に欠けるとかいわれそう。でも、思わず立ち止まって見入ってしまうような絵が描ければ、とりあえず勝ちだ。どうやら水野里奈は、タイトルにもあるように、立ち止まらざるをえない絵画を目指しているらしい。
水野の作品はどれも、波打ち渦巻くような黒い線描が縦横に走り、その隙間に中東あるいは中華風の色鮮やかな花模様や虹のパターンが現出し、ところどころキャンバス地(余白)が顔を出している。水野によれば、「中東の細密画の装飾性・伊東若冲の水墨画・キャンバス地そのもの」の3点セットだ。大雑把なモノクロのブラッシュストロークと、細密でカラフルな植物画という対照的な要素が画面に同居し、日本的とも西洋的ともアジア的ともいいがたい独自の空気とダイナミズムを生み出している。その情報量の多さと多彩さゆえ、見ていて飽きることがない。
今回は幅5メートルを超す巨大絵画を掛けた壁面にも、墨でウォール・ドローイングを施している。画面内の形態が一部そのまま壁につながるように周囲に伸びているため、絵画の中身が壁面にジワリと浸透していくような印象だ。その壁面のドローイングは大きく渦巻き、若冲もさることながら蕭白の運筆を彷彿させる。これはアッパレ!
2019/07/20(土)(村田真)