artscapeレビュー
スティーブン・スピルバーグ『ウエスト・サイド・ストーリー』
2022年04月15日号
一度のみならず、劇場で見ておくべき傑作だったので、映画『ウエスト・サイド・ストーリー』の二度目の鑑賞を行なった。そもそも全曲を覚えていたくらいの傑作ミュージカルの映画を、改めてスティーブン・スピルバーグが映画化したわけだが、期待以上の完成度に到達した作品である。当初はなぜ、今さらこの映画なのか、という疑問をもっていたが、トランプ前大統領によって加速した分断の時代だからこそ、いまこのリメイクが意味をもつ。またあらゆることが、VFXによって表現できてしまい、かえって驚きが消えてしまった映画界において、生身の人間の歌と、抜群の切れ味のある踊りによって驚異的な力を発揮している。
実際、本作ではいわゆる有名な俳優はキャスティングされていない。だが、その身体能力の凄さによって、観客を魅せることに成功している。ミュージカルという映画ジャンルは、登場人物が歌いだすと、しばしば物語の進行が止まってしまう。下手をすると、映画としては退屈しかねないのだが、バーンスタインによる原曲の良さ、歌の上手さ、そして都市空間におけるダイナミックな動きがノンストップで続くことによって、むしろ鑑賞者の目と耳を釘付けにさせる。ちなみに、バーンスタインの名曲群は、「トゥナイト(クインテット)」の5重唱や「ア・ボーイ・ライク・ザット/アイ・ハブ・ア・ラヴ」、「アメリカ」など、相反する台詞がぶつかる掛合いの部分が多く、実はけっこうオペラ的であることにも気付かされた。
さて、都市という視点では、鉄球による解体作業中の建設現場と、モダニズム的な再開発を促進したロバート・モーゼスに対する反対運動のプラカードが映っていたように、破壊されていくスラム街とされた地域が舞台だった。そしてオペラ、クラシック音楽、バレエなどのパフォーミング・アーツの拠点となるリンカーン・センターや高層マンションの完成予想図などが示される。すなわち、モーゼス的な都市計画に叛旗をひるがえし、路上の地域コミュニティを重視したジェイン・ジェイコブズの『アメリカ大都市の死と生』(1961)が執筆された時期と重なるだろう(映画の設定は、1957年)。
この映画は臨場感を出すべく、さまざまな場所で野外ロケをしているが、印象的だったのは、マリアとトニーがデートに出かけ、愛を誓うシーンである。これはマンハッタン北端にたつ、ヨーロッパの中世の建築を移築して合体させたクロイスターズ美術館で撮影された。それゆえ、二人の会話の流れだったとはいえ、空間をステンドグラスのある教会に見立てることができたのである。
2022/03/08(火)(五十嵐太郎)