artscapeレビュー
石巻の震災遺構
2022年04月15日号
[宮城県]
石巻工房のショールームでもあるが、宿泊も可能な《石巻ホームベース》(2020)にて、トラフ建築設計事務所がデザインした部屋で一泊した(ここはデッキの方が部屋より広い)。共有部の広い吹き抜けはカフェを併設しており、気持ちが良い空間である。近郊では、コンビニを教会(!)にリノベーションした《石巻オアシス教会》(2016)を発見したが、これはめずらしい事例だろう。続いて、《マルホンまきあーとテラス》(2021)を再訪した。これは復興建築としても画期的なデザインだが、藤本壮介の国内の代表作になるだろう。昨年の訪問時はまだオープン前だった博物館の見学が、今回の目的である(ちなみに、公式HPの表記は、いまも「準備中」という誤解を招くのが気になった。実際は博物館のネット用のコンテンツが準備中という意味なのだが)。宮城県美術館などで文化財レスキューが行なわれた後、石巻に戻ってきた高橋英吉の彫刻群や、アナログ的な時層地図の展示の仕かけが印象に残った。
昨年はコロナ禍で入れなかった、《みやぎ東日本大震災津波伝承館》(2021)をようやく見学することができた。建築は津波の高さや被災の時刻をデザインに組み込んだものだが、プログラムとの齟齬、後から別のコンテンツが割り込んだこと、あれだけの大災害なのに絶対的に面積が少ない、全体的に内容が薄い、明るすぎて導入の映像が見えにくいなど、やはり展示については問題が多い。ボランティアの案内が貴重な話をしてくれるのが、せめてもの救いだった。向かいの門脇小学校も、震災遺構として整備が終わっていた(4月から一般公開)。震災遺構・大川小学校とその伝承館(デザインはAL建築設計事務所らが担当)は、実際に裁判も行なわれたためか、はっきりと子どもの犠牲者が出たことに対し、責任を認めている展示であり、このような例はほかであまり見たことがない。ここも遺構内には立ち入れないが、さまざまな角度から見学は可能であり、実物の存在は重みをもつ。なお、「記憶の街」の模型は、なぜか道路向かいの小さい民間施設で収蔵・展示していた。
市内に戻って、勝邦義氏の案内で、石巻のキマワリ荘を訪問した。1階はかんのさゆりの写真展が開催され、忍者屋敷のような階段を上ると、mado-beyaで中﨑透らの三人展、その奥にサウンド・インスタレーションがある。すなわち、小さな民家に複数のギャラリーが同居するスペースだが、Reborn-Art Festivalの副産物らしい。その隣もユニークな電気屋であり、自動車などのメカのイラストレーター佐藤元信のドローイングを展示していた。
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2022/03/15(火)(五十嵐太郎)