artscapeレビュー

深沢次郎「よだか」

2022年04月15日号

会期:2022/04/07~2022/04/28

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

深沢次郎は、3年前に「親友」を失った。9年前に事故で左目を失明し、5年前には脳梗塞で半身麻痺となった彼の死をきっかけとして、深沢はその記憶を辿り直すように、ともに過ごした長野県の山中に踏み込んでいった。今回、コミュニケーションギャラリーふげん社で展示され、同名の写真集も刊行された「よだか」は、そのようにして形をとっていった写真シリーズである。

小説家、俳人でもあった彼が生業としていた炭焼きの炎、冷たく結晶する氷柱、鹿狩りの血の色、そして満天の星──深沢がそこで目にしてカメラを向けた森羅万象が、友の死の影を纏っているように見えてくる。とはいえ、それらはまた、みずみずしい再生の気配を漂わせるイメージと隣り合っており、両者が渾然一体となって、深みのあるレクイエムが聞こえてくるように織り上げられていた。

会場構成も、作品の内容とよく釣り合っており、大小の写真を、共振するように壁にちりばめている。どこか教会を思わせるふげん社のギャラリー空間がよく活かされていて、隅々まで深沢の張り詰めた造形意識が行き届いた展示だった。深沢は2009年にPGIで個展「In the Darkness」を開催するなど、力のある写真家だが、このところあまり積極的に作品を発表していなかった。「よだか」はその意味で、ひとつの区切りとなる仕事といえるだろう。その死生感。自然観を充分に発揮できる環境が整いつつあるのではないだろうか。

2022/04/07(木)(飯沢耕太郎)

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