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第25回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)展

2022年04月15日号

会期:2022/02/19~2022/05/15

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

公募展や団体展というのは回を重ねるにつれマンネリ化していくものだが、この「岡本太郎現代芸術賞(太郎賞)展」は例外で、20回を超えてからもますます尖ってきているように見える。今回は会場に足を踏み入れたとたん、まるでお祭り騒ぎに巻き込まれたようなにぎやかさに圧倒された。伝説でしか知らないが、この過激さは読売アンデパンダン展(以下、読売アンパン)の末期に近いのではないか。

最初に目に入るのは、長さ6メートルもの巨大なバナナの皮。三塚新司の《Slapstick》だ。バナナの皮といえば、たぶん世界中で通用するグローバルなお笑いアイテムのひとつだが、これほど大きなバナナの皮だと、どれだけ巨大な存在をスベらせ、どれだけ笑いを誘うのか、想像するだけで楽しい。表現があまりにリアルでストレートすぎる嫌いはあるが、中身のない皮だけを、空気で膨らませたバルーンで再現するという転倒ぶりも笑える。これは岡本敏子賞。バナナの向こうには、赤と黒を基調にした数十点の絵が壁一面に掛けられている。と思ったらすべて刺繍作品だった。吉元れい花の《The thread is Eros, It’s love!》で、中央に「糸」「エロス」「愛」という文字を据え、花や人の図像が刺繍されている。なんだか怪しい雰囲気。こちらは岡本太郎賞を受賞。

近年はこのように、絵画や立体を壁や床いっぱいに並べる見せ方が増えている。特にこの大賞展は縦横奥行きが各5メートル以内という規定があるので、壁3面のブースの正面にメインの作品を飾り、周囲に小さめの作品を並べるという形式がここ数年ブームのようになっている。昨年、大賞を受賞した大西芽布も、一昨年の大賞受賞者の野々上聡人もそうだった。今年も、麻布の人形(ひとがた)を並べた村上力(特別賞)、植物をモチーフにしたタブローの井下紗希、鎖国をテーマにした墨絵の平良志季、シュルレアルなフォトコラージュを何百枚も貼り出した出店久夫らはほぼ同じ形式で見せている。逆に、以前よく見かけた巨大なタブローや彫刻を1点だけ見せる例はめっきり減り、今回は三塚のバナナくらい。

このように作品を集積する見せ方が、お祭り騒ぎのようなにぎやかさを醸し出していることは間違いない。ただし、この傾向が入選しやすいとか受賞しやすいといった理由で増えているとしたら、ちょっと残念な気がする。先に読売アンパンと比べたが、決定的に違うのは、読売アンパンは出品作品に規定がなく(末期には規定が設けられたが)、いかに他人と異なっているか競い合っていたのに対し、こちらの大賞展の作品は、あらかじめサイズや素材などが規定内に収まった入選作であり、賞があるせいか今回のようにあるひとつの傾向に流されやすいことだ。いってみれば「お行儀のいい過激派」。これも時代の流れだろうか。



展示風景[筆者撮影]


2022/04/03(日)(村田真)

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