artscapeレビュー

オノデラユキ「ここに、バルーンはない。」

2022年04月15日号

会期:2022/03/19~2022/04/09

RICOH ART GALLERY[東京都]

パリに住んで30年近くになるオノデラユキの個展。キャンバス上にプリントを貼った7点の連作で、いずれも街角を撮ったモノクロ写真の上に、黄色っぽい絵具がベットリと付着している。街の上空に出現した粘体性のエイリアン? というよりは、写された風景写真に覆いかぶさった次元の異なる異物といったほうがいい。汚いたとえだが、写真の上に吐き出されたゲロみたいな(笑)。

そもそもこの作品をつくるきっかけは、1900年初めに撮られた1枚の写真だという。パリの街角を撮ったもので、中央に人がたくさん集まって頭上のバルーンを支えるブロンズのモニュメントが写っている。モニュメントの作者はニューヨークの自由の女神像と同じ、オーギュスト・バルトルディ。ところが現在、そんなモニュメントはパリのどこにも見当たらないので調べてみたら、第2次大戦中に解体され、溶かされて武器かなにかに変えられたらしい。そこでオノデラはモニュメントのあった広場に行き、周辺の風景を撮影。拡大したプリントをキャンバスに貼り、その上からリコーの技術で2.5次元のレリーフ印刷を可能にする「ステアリープ」プリントによって、例の黄色い「ゲロ」を定着させた。

それはオノデラによれば、「『溶けて無くなった彫像』の不在を呼び戻すような行為」だという。だが、こうもいえないだろうか。ブロンズ彫刻は溶かせば武器や弾薬に再利用できるが、写真や絵画は燃やせば灰になってなにも残らない。その驚きと無力感のない交ぜになった不条理な感情が、この不定形なかたちを生み出したのだと。日常的な風景写真と異次元の妖怪=溶解物との出会い。実存の不安に嘔吐したロカンタンではないが、「ゲロ」のたとえもあながち的外れではないかもしれない。

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