artscapeレビュー
オノデラユキ「ここに、バルーンはない。」
2022年04月15日号
会期:2022/03/19~2022/04/09
RICOH ART GALLERY[東京都]
オノデラユキの発想の元になったのは、1900年初めのパリ、ポルト・デ・テルヌの広場を撮影した一枚の絵葉書だった。そこには広場の中央にある、複数の人間が頭上にある大きな気球(バルーン)を支えているモニュメントが写っていた。どうやら、この熱気球の操縦士と伝書鳩を讃えるブロンズの彫刻は、第二次世界大戦中に溶かされてしまったようだ。オノデラはこの「溶けて無くなった彫像」をキーワードとして、その「不在を呼び戻す」ような作品制作をもくろむ。
それが今回展示された、7点連作の「ここに、バルーンはない。」である。
まず、現在のポルト・デ・テルヌの光景を撮影し、それをやや粒子を荒らした大判のモノクローム・プリントとして提示する。その画面上に、RICOHが開発したStareReapという手法で生成された、黄色い不定型のフォルムの図像を重ねていく。StareReapは、UV光の照射によって硬化するインクを用いて、画像を立体的(2.5次元)に盛り上げてプリントすることができる技法である。今回の作品の場合、バルーンの彫刻の「不在を呼び戻す」手段として、この技法がうまく活かされ、インパクトの強い視覚的効果が生じていた。日常的な事物を題材にして、それをさまざまな手法でずらしたり、変型したりするオノデラの作品制作のスタイルが、とてもうまくはまったシリーズだと思う。StareReapはほかにもいろいろと応用が効きそうな技法なので、ぜひ前回の横田大輔(「Alluvion」2021年7月10日~8月7日)、今回のオノデラユキ以外の作家にも積極的に使ってもらい、その表現の幅を広げていってほしい。
関連レビュー
オノデラユキ「ここに、バルーンはない。」|村田真:artscapeレビュー(2022年04月15日号)
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2022/03/24(木)(飯沢耕太郎)