artscapeレビュー

豊吉雅昭「MONOCLE VISION」

2022年04月15日号

会期:2022/04/04~2022/04/16

Art Gallery M84[東京都]

豊吉雅昭は緑内障という難病に罹り、左目の視野をほとんど消失した。今回Art Gallery M84で展示された「MONOCLE VISION」は、その彼が「見えない自分の視界を表現すること」をめざして、2016年開始したシリーズである。「目が霞む」「信号はどこに」「乱れた映像」といった直截なタイトルを付した作品群では、都市風景をモザイク状に切り刻み、再構築している。いつか完全に失明してしまうのではないかという不安感に裏打ちされたそれらの画像は、切実な緊張感を湛えており、見る者を豊吉の視覚世界に引き込んでいく強度を備えていた。最初は道ゆく人などをブラして撮影していたのだが、逆にピントをシャープにすることを心がけ、ネガ画像なども積極的に取り込むことで、彼の意図がよく伝わる写真シリーズとなったのではないかと思う。

豊吉がこのシリーズを撮影し始めたきっかけは、神経系の病で指が動かなくなり、7本の指だけで演奏を続けているピアニスト、西川梧平と出会ったことだった。西川が自分の病気を「ギフト」と称していることに強い共感を抱いたのだという。確かに、身体的なハンディは表現者にとって大きなリスクとなるが、逆に創作活動の幅を広げ、思いがけない可能性を拓く場合もある。豊吉の作品が、これから先どんなふうに変わっていくのかが楽しみだ。

2022/04/07(木)(飯沢耕太郎)

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