artscapeレビュー
SHOWKO『感性のある人が習慣にしていること』
2022年04月15日号
著者:SHOWKO
発行日:2022/01/21
著者のSHOWKOは、私が個人的によく知る人物だ。京都で陶芸家、アーティストとして活躍する彼女は天性のオーラというか、タレント性のような人を惹きつける魅力を持っている。そのため彼女がプロデュースする陶芸ブランド「SIONE」にも多くのファンがついている。これまで国内外の展覧会に精力的に作品を出品し、メディアにも取り上げられてきた彼女が、今度は本を上梓した。当初、自身の半生や活動を綴ったエッセイのようなものかと想像していたら、意外にも自己啓発本にも似たハウツー本である。テーマは「感性」。なるほど、彼女を素敵に見せている感性は持って生まれたものだと思い込んできたが、実はそうではなかったというわけだ。「習慣」という手法で自ら積極的に身につけてきたことが、本書を読んでわかった。
本書はハウツー本として、端的によくまとまっている。感性は習慣によって身につけられるものと断言し、「観察する」「整える」「視点を変える」「好奇心をもつ」「決める」と五つの習慣に集約して紹介している。「『肌の感覚』で気温を当ててみる」「『同時にこなす』意識をもつ」「『午前中』に掃除をしてみる」など、その事例の一つひとつは簡単に実行できることや些細なこと、またライフスタイル系雑誌や書籍などでも紹介されてきた事柄のように見受けられたが、「感性」というテーマで、ここまで体系的にまとめた試みはユニークである。またそうした類似の雑誌や書籍と根本的に異なるのは、彼女が歴史ある茶道具の窯元の家に生まれ育ってきたことだろう。幼い頃から日本の伝統文化に自然と触れてきた経験は何事にも代え難いし、また所作の美しさを極めた茶道から学ぶことは大いにあると、私も経験上実感している。
本書では最後の方で「クリエイティブ・ジャンプ」について触れている。それは、優れた感性を持つクリエイターが現状の延長線上ではなく、大きなジャンプで遠くまで飛んでいき、周囲をアッと驚かせるアイデアにたどり着く状態を指す。本書では「『自分の100年史』を書いてみる」という事例でこれに触れているが、私はハタと気がついた。彼女が感性を身につける努力を意識的にしてきた理由は、おそらくこのクリエティブ・ジャンプをするためではないか。トーマス・エジソンの名言「天才とは、1%のひらめきと99%の努力である」になぞらえるなら、「感性とは、1%のクリエティブ・ジャンプと99%の習慣である」ということなのだろう。
2022/03/15(火)(杉江あこ)