artscapeレビュー

伊藤義彦「フロッタージュ─フィルムの中─」

2022年04月15日号

会期:2022/03/23~2022/04/28

PGI[東京都]

5年ぶりだという伊藤義彦のPGIでの個展には意表を突かれた。そこに並んでいたのは写真のプリントではなく、凹凸のあるものの上に紙を置いて鉛筆で擦り、その形を浮かび上がらせるフロッタージュの手法で制作された作品だったからだ。

伊藤は撮影済みのネガをプリントする段階で手を加え、新たなイメージへと再構築していく作品をずっと作り続けてきた。ところが、愛用していた印画紙が市場から姿を消したことで、それ以上作品制作を続けることができなくなった。途方に暮れながら、残されたフィルムの断片をいじっているうちに、そこに規則正しく並んでいるパーフォレーション(フィルムの穴)の形を、そのままフロッタージュで写しとることを思いついたのだという。

そうやってでき上がった本作は、フィルムという媒体に対する愛着だけでなく、伊藤が本来持っていた造形作家としての構想力を全面的に開花させたようだ。シンプルだが、味わい深いフィルムのフォルムが紙の上で自由自在に結びつき、伸び広がり、融通無碍な画面が形づくられていく。フィルムだけでなく、切り紙や丸い穴が空いたテンプレート、蝶の形のオブジェなども使って、遊び心あふれるミクロコスモスが織り上げられていた。

その楽しげな作業の集積を見ていると、思わず顔がほころんでくる。伊藤自身にとっても思いがけない展開だったのではないかと思うが、この仕事はいろいろな方向に動いていく可能性を持っているのではないだろうか。

2022/04/02(土)(飯沢耕太郎)

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