artscapeレビュー

和田誠 映画の仕事

2024年02月15日号

会期:2023/12/12~2024/03/24

国立映画アーカイブ[東京都]

「好きこそ物の上手なれ」とは、まさに和田誠のことではないかと本展を観て思った。2019年に逝去した和田は、日本を代表するグラフィックデザイナー・イラストレーターであったが、映画監督の顔ももっていた。これは彼の映画にまつわる仕事に焦点を当てた展覧会である。驚いたのは、駆け出しのデザイナーとして広告制作会社に勤めていた頃、本業の傍で、日活名画座から映画ポスターの制作を無報酬で請け負っていたという事実である。それが、映画少年として育ってきた彼が映画の仕事に携わるようになった第一歩だった。無報酬なのに、いや、無報酬だったからこそ存分に力を発揮できたのか。そのときの映画ポスターの数々を観ると、とても良い仕事をしているのである。力強い筆致のイラストレーションを際立たせながら、全体的に引き算の手法でまとめており、名画座に相応しい文化的な薫りがどこか漂っていた。


和田誠作「国立近代美術館『アメリカ映画史講座 チャップリンの歩み』」ポスター(1959)国立映画アーカイブ所蔵


良い仕事をすれば、それが営業の種になるのは必然で、彼は別の映画ポスターや映画専門誌などで仕事の機会を増やしていく。そして、極めつけが映画監督だ。グラフィックデザイナーやイラストレーターが本業で、映画監督に挑んだというマルチクリエーターは後にも先にも和田誠をおいてほかにはいない。もちろんコマーシャルフィルムやコンセプトムービーのような映像制作に携わるマルチクリエーターはほかにもいるだろう。しかしながら、そうした類の映像と映画とはまるきり違う。映画はエンタテインメントだ。そこには「好きこそ物の上手なれ」的な情熱がなければ、面白い作品はつくれないだろう。


和田誠画『巴里のアメリカ人』(2011)画像提供:和田誠事務所


和田が監督を務めた映画『麻雀放浪記』(1984)と『快盗ルビイ』(1988)をかつて観たことがあるが、どちらも毛色のまったく違う作品で、そこに彼の器用さを垣間見ることができる。映画業界にどっぷりと浸かった人ではない、異色の分野からメガホンを取ることで生まれるクリエーションがある。彼が生んだ何本かの映画作品は、映画ファンとしての純粋な熱意と、デザイナーならではの洗練さが掛け合わさった良質な実験作と言える。


『麻雀放浪記』(1984、和田誠監督)絵コンテ[複製]個人蔵(澤井信一郎氏旧蔵)



和田誠 映画の仕事:https://www.nfaj.go.jp/exhibition/makotowada2023/

2024/01/27(土)(杉江あこ)

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