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金川晋吾「ハイムシナジー」

2024年02月15日号

会期:2023/01/25~2024/02/11

コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]

年2回刊行のペースで着実に読者層を拡大してきた雑誌『写真』(ふげん社)の第5号が刊行された。今回の特集テーマは「フェイス/FACES」で、その刊行記念展として、コミュニケーションギャラリーふげん社では、巻頭作家のひとりの金川慎吾の個展が開催された(もうひとりの巻頭作家のRyu Ikaの展示は2月15日~3月3日)。

金川はこれまで、失踪を繰り返す父親や、長年行方不明になっていた叔母さんなど、近親者の、やや奇妙な人間像に迫るポートレート作品を主に発表してきた。だが、今回は自分自身を被写体として取りこむとともに、より身近な人間関係の機微にカメラを向けている。

タイトルの「ハイムシナジー」というのは、自身が5年前の2019年から暮らし始めた住居の名称であり、そこでは女─男─男という3人による同居生活が営まれている。その「文ちゃん」と「玲児くん」と金川本人の3人に加えて、2022年からは「泰地くん」というもうひとりの男性と共に過ごす時間が増え、写真には彼ら4人の姿がさまざまなかたちをとって写り込むことになった。男女4人の関係というと、どうしても精神的、肉体的な葛藤が付きまとうと思われがちだが、金川の写真はその予想を大きく裏切るものになった。全裸のヌードなどもあるのだが、彼らを取り巻く空気感は、のびやかで居心地がよさそうだ。

 

かつて、アメリカの女性写真家のナン・ゴールディンは、『The Ballad of Sexual Dependency』(1986)で、「性的依存」を基調とした男─女、男─男、女─女のカップルのあり方を「拡大家族」として描き出した。だが、金川の「ハイムシナジー」にはゴールディンの写真のような焦燥感、緊張感はまったく感じられない。既成の「家族」のあり方を解体/構築しているのは同じだが、その方向性がかなり違ってきているのだ。性愛をベースにするのではない、かといってそこから目を背けるのでもない、新たな、未知の人間関係をどのように作っていくのかを、説得力をもって示唆する写真群といえるだろう。


金川晋吾「ハイムシナジー」:https://fugensha.jp/events/240125kanagawa_ryu/

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