artscapeレビュー

時津剛「BEHIND THE BLUE」

2024年02月15日号

会期:2024/01/23~2024/02/05

ニコンサロン[東京都]

1976年、長崎市生まれの時津剛は、1994年に大学進学のために上京し、以来、東京とその周辺に住んでその変化を見続けてきた。1996~98年には、新宿駅西口の地下道にあった、ホームレスの住人たちの「ダンボール村」を撮影していたのだという。2015年から撮影を開始したという今回の「BEHIND THE BLUE」は、いわばその続編というべきシリーズで、多摩川沿いの河川敷にブルーシートで覆った仮設の「小屋」を建てて住みついている人たちと、彼らを取り巻く環境とを、丁寧に、時間をかけて撮影している。

やや距離をとって、あくまでも客観的な視点で撮影された写真群には、「小屋」の住人たちとその周囲の環境がしっかりと写り込んでおり、とかく「見えない存在」として無視されてしまう彼らの生のあり方がじわじわと浮かび上がってくる。地面に置いてある靴、中古の自転車や電化製品などの持ち物、コンクリートに記されたメッセージ、草むらに落ちていた聖画など、一見住人たちとはかけ離れた存在が、逆に雄弁に何ごとかを語りかけてくるようにも感じられる。写真展に合わせて、同名の写真集(私家版)も刊行されており、とてもよくまとまった労作だった。ただ、今回の展示や写真集では、時津がなぜ本シリーズを撮り始め、そこで何が見えてきたのかが、明確に表明されていないように感じた。むしろ長めのテキストが必要になるのかもしれない。文章と写真とがうまく融合すれば、そこから伝わるメッセージはより強く、説得力を持つものになるのではないだろうか。


時津剛「BEHIND THE BLUE」:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2024/20240123_ns.html

2024/02/05(月)(飯沢耕太郎)

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