artscapeレビュー

野村浩「Painter」

2024年02月15日号

会期:2024/01/20~2024/02/18

POETIC SCAPE[東京都]

東京・中目黒のPOETIC SCAPEでの野村浩の展示も、今回で11回目だという。いつでも手を変え品を変えて、多彩かつ精緻な思考実験を形にした作品を見せてくれるのだが、今回は新作のコミック物語本『Painter』(go passion)に登場するキャラクターたちが制作したという設定で、野村が描き下ろした絵画を中心にした作品群が出品されていた。

野村は2018年に同様のコンセプトで『CAMERAer』(go passion)と題する作品集を刊行している。今回も『CAMERAer』のキャラクターの何人かが再び登場しており、『Painter』はその続編といえるだろう。前回は「写真論」を俎上に載せていたのだが、今回はその領域が「絵画論」にまで拡大した。しかし写真と絵画との異質性よりは、むしろ共通性、相互作用性が強く打ち出されており,それは写真作品と絵画作品を並行して発表し続けている野村自身の作家としての姿勢にも合致している。さらに清水穰が力のこもった解説「点と面、写真と絵画の組模様(アントルラック)」を寄せた別冊が付録としてつくなど、内容的にもより充実したものになっていた。

一見すると、写真という領域からはみ出した活動を展開しつつあるように思える野村だが、彼の本質的な立場はあくまでも「写真家」だと思う。ただ、彼は常に写真の表現力を狭い範囲に閉じ込めるのではなく、開かれたメディアとして拡張しようとしている。玉手箱から次に何が飛び出してくるのかはわからないが、まだまだ面白い隠し玉がありそうだ。


野村浩「Painter」:https://www.poetic-scape.com/#exhibition

2024/01/24(水)(飯沢耕太郎)

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