artscapeレビュー
長船恒利「在るもの」
2024年02月15日号
会期:2023/12/23~2024/01/28
Kanzan Gallery[東京都]
北海道小樽市出身の長船恒利(1943-2009)は、1970年代後半以降の自主運営ギャラリーを舞台とした作家活動において重要な役割を果たした写真家である。静岡県藤枝市を拠点に、仲間たちと「写真集団GIG」を立ち上げ、東京のギャラリーPUTでの個展や「今日の写真・展 77」(1977)、「視覚の現在」(1979)などの企画展にも積極的に参加した。今回展示された「在るもの」は、1977~79年にかけて発表された、長船の代表作といってよい作品である。
大判カメラによって撮影された都市の日常の光景は、画面の細部まで緊密に描写・構成され、完璧な諧調のモノクローム・プリントとして提示されている。それらは、当時の若い写真家たちによって展開された、現実世界の単なる写しではない、それ自体が独自の質感と構造を備えた「写真」の追求の極限というべきシリーズである。「写真による写真論」あるいは「写真論写真」とも称された「コンセプト・フォト」のスタイルを、最も純粋に探求していったひとりが長船であったことを、今回の展示であらためて確認することができた。
だが長船は1980年代以降になると、写真家という枠組みを超えた、より多面的なアーティスト活動を展開していくようになる。「在るもの」の続編というべき、クオリティの高い写真作品の制作はもちろんだが、パフォーマンス、プリペアド・ピアノの演奏、石彫なども試みた。後期の、写真以外の仕事も含めた彼の全体像を浮かび上がらせる展覧会をぜひ見てみたい。
長船恒利「在るもの」:https://sites.google.com/kanzan-g.jp/home/exhibitions/長船恒利-osafune-tsunetoshi
2024/01/18(木)(飯沢耕太郎)