artscapeレビュー

「エレメント」構造デザイナー セシル・バルモンドの世界

2010年02月15日号

会期:2010/01/16~2010/03/22

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

セシル・バルモンドは、世界中の建築家とともにプロジェクトを手がけ、自らもデザインも行ない、もはや単なる構造家とはいえない人物である。展示で興味深いのは、いわゆるプロジェクト紹介は最後にパネルでまとめて行なわれる形で、むしろコンセプチュアルな思考そのものが展示されていたことだった。特に印象的だったのが、二つ目の部屋の《ヘッジ》と題されたインスタレーションである。H型のアルミプレートがチェーンとともに多数立体的に浮かび、きらびやかな空間が構成されている。チェーンでプレートを釣っているわけではなく、チェーンへのプレストレスを利用することにより、単独では自立しないもの同士が、お互いに支え合う構造をつくりだしている。全体として、二次元でもない三次元でもない中間次元の存在であるという。バナーと呼ばれる第一の部屋の200本の垂れ幕による迷路状の空間や、いくつかの彼自身のプロジェクトともあわせて、フラクタル的な空間への志向が明確に現われていた(第一の部屋の自然の写真は、フラクタル幾何学を想起させよう)。バルモンドは、自然の形態を模倣するのではなく、その背後にある幾何学を抽出する。「ディープ・ストラクチュア」という彼の言葉が印象的だ。彼は自然界の構造の最深部に迫ろうとしているのであろう。ヨーロッパでは、建築家でも構造家でもあるエンジニアリング・アーキテクトが増えてきており、セシル・バルモンドはその代表格といえよう(ほかには例えばヴェルナー・ゾーベックなど)。デザインする構造家という、オルタナティブなアーキテクト像が生まれてきているのかもしれない。

展覧会URL:http://www.operacity.jp/ag/exh114/

2010/01/23(土)(松田達)

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