artscapeレビュー

木村伊兵衛とアンリ・カルティエ=ブレッソン 東洋と西洋のまなざし

2010年02月15日号

会期:2009/11/28~2010/02/07

東京都写真美術館 3階展示室[東京都]

手堅い企画だと思う。写真に少しでも興味があれば、この二人の“ライカの巨匠”の名前くらいは知っているだろうし、展示も東京都写真美術館をはじめとして日本の美術館の収蔵作品を総ざらいしているので、なかなか見応えがある。内容的にも、それぞれの作風の共通性と違い(木村の柔らかな融通無碍の構図と、カルティエ─ブレッソンの幾何学的な画面構成など)がよく伝わってきた。実際に祝日ということもあって、作品の前をぎっしりと埋め尽くすような観客の入りだった。
ただ、こういう有名写真家の展示なのだから、逆にもう少し冒険も必要なのではないか。二人の作品を分けて展示するのではなく、対照させつつ相互に並べるといった試みも考えられると思う。キャプションにも、もう一工夫必要だろう。木村のパリ滞在時におけるカルティエ=ブレッソンとの交友のエピソードなどをうまく散りばめれば、もっと観客を引き込むことができるのではないだろうか。面白かったのは最後のパートに置かれた二人のコンタクト・プリント(密着ネガ)の展示。撮影時の生々しい息づかいが伝わってくる。二人とも「決定的瞬間」を見つけだし、定着するために、粘りに粘ってシャッターを切っているのがわかる。たとえば木村伊兵衛の名作《本郷森川町》(1953年)は9カット連続して同じ場所を撮影したうちの7枚目、《板塀、秋田市追分》(同)は6カットのうちの5枚目だ。このしつこさが、スナップショットの名人芸を支えていたことを見過ごしてはならないだろう。

2010/01/11(月)(飯沢耕太郎)

artscapeレビュー /relation/e_00006977.json l 1212173

2010年02月15日号の
artscapeレビュー