artscapeレビュー
フランク・ロイド・ライト『自然の家』
2010年02月15日号
発行所:筑摩書房
発行日:2010年1月10日
フランク・ロイド・ライト、87歳(1954年)のときの著作の翻訳。同書は、すでに遠藤楽訳による『ライトの住宅』(彰国社、1967年)として出版されているが、富岡義人による読みやすい新訳で出版された。1936年-1953年と題された第一章と、1954年と題された第二章による構成であり、訳者よれば、創世記から福音書に至る旧約聖書・新約聖書に見立てられて編集されているのではないかという。師のサリヴァン事務所で主に住宅を担当したライトは、大きくいえば、独立後、プレーリー(草原)型住宅から、ユーソニアン住宅(ユーソニアは、サミュエル・バトラーの用語でアメリカのこと。Usonia : United States of North America)を経て、有機的建築に至るが、本書ではユーソニアン住宅から有機的建築に至るライトの思考が力強い文体で描かれる。特に強調されるのは「単純性」や「統合性」といった概念である。有機的建築の本質は単純さであり、それは単なる簡素な単純さとは別のものだとライトはいう。複雑化する人生の中で、勇敢に単純であることによって自由が得られるのだという、ライトの強い思想が全編にわたって感じられる。本書は、ライトの年譜や建築地図もつけられており、ライトの入門にも絶好の本であろう。なお、2009年でライトは没後50年を迎えた。
2010/01/31(日)(松田達)