2019年06月15日号
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artscapeレビュー

五十嵐太郎『建築はいかに社会と回路をつなぐのか』

2010年02月15日号

発行所:彩流社

発行日:2010年1月28日

建築の人の言葉は、分かりにくいとよく言われる。また建築論は、同業者のみに向けた内容で、閉じていると言われることもある。しかし本書の大きなテーマは、題名にもあるように建築と社会との回路のつなぎ方であり、建築が閉じた世界に留まらないための開かれた議論が展開されている。実際、文章もわかりやすく、終わりに行くほど文章が平易なっており、読むスピードに加速がつく。著者は建築史出身であり、前半歴史編、後半現代編と時系列を持っているが、取り上げられる事例はむしろ従来の建築史に現われてこないものばかりだ。新宗教の建築であったり、靖国神社であったり、学生の卒業制作であったり、またグーグルストリートビューに対する考察まで現われる。しかしそれこそが著者の方向性を示している。閉じた建築史を開き、また「建築」という概念の境界自体も大きく広げていくことによって、自然に建築と社会との交わりが見えてくる。特に後半「旅」を通じて出会った物事について、広範囲に触れられていたことも印象的だ。前半は建築理論の話も多いが、後半は理論化する以前の思考が展開される。それは著者が建築や都市を、写真や図面を見て頭で考えるよりも、足で歩いて体験して考えるという「行動する批評家」であることを示しているだろう。建築分野から社会に対し、多くの問題提起も投げかけられている。

2010/01/28(木)(松田達)

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