artscapeレビュー
迫川尚子「日計り 空隔の街・新宿」
2010年02月15日号
会期:2010/01/16~2010/02/26
日本外国特派員協会(外国人記者クラブ)[東京都]
新宿駅東口構内のカフェ、ベルクの副店長である迫川尚子は、店の行き帰りに目にしたものを、カメラを手にスナップをしてきた。その20年近くにわたる新宿界隈の撮影の成果は、2004年に写真集『日計り』(新宿書房)にまとめられて好評を博した。今回は、日比谷の外国人記者クラブ内のメインバーと寿司バーの壁面という写真展にはやや不似合いな場所に、全倍に大きく引き伸ばされた写真がゆったりと並んでいた。写真から新宿の光と空気感があふれ出してくるようで、なかなかいい展示だと思う。
迫川の被写体になっているのは、商店街、路地裏、ダンボールハウスの居住者を含む住人たちなどである。新宿という土地を隅々まで知り尽くし、身体化していないとなかなか見えてこない光景だろう。それらのどちらかといえば雑然とした、薄汚れた眺めを,日の光があまねく照らし出している。カメラを向けた瞬間に目に飛び込んでくる光の助けを借りつつ、迫川はそこに存在する事物や人間や動物たちを、等価に、慈しむようにモノクロームのフィルムにおさめていく。そうやって蓄積された写真群は、どこか懐かしく、温かみをともなって観客に届いてくる。これが日本の都市の原風景なのだと、外国人記者たちに誇りたい気分になる。
2010/01/20(水)(飯沢耕太郎)