artscapeレビュー

小鷹拓郎 ポテトと河童とラブレター

2010年10月01日号

会期:2010/08/18~2010/08/29

Art Center Ongoing[東京都]

東京の野方でリサイクルショップ「こたか商店」を営むアーティスト、小鷹拓郎の個展。新作の映像作品《ポテトとアフリカ大陸を横断するプロジェクト》(2010)のほか、《河童の捕まえ方を教えてもらうプロジェクト》(2009)、首長族の娘を慕う《Dear NOZOMI》(2006)、じつの祖母の生態を観察した《BABAISM》(2005)など、過去の映像作品もあわせて発表された。映像のスタイルとしては、密着取材あり、旅行記風あり、私小説風ありと、じつにさまざまだが、それらに一貫しているのは、かつてのテレビ番組「進め!電波少年」のように、出来事のおもしろさを伝える手段として映像を最大限に使い倒す構えだ。こうした傾向は近年の映像作品全般に見受けられるひとつの潮流であることはたしかだが、問題なのは、小鷹が体験した出来事のおもしろさを追体験することだけではなく、その前提を踏まえたうえで、小鷹がどのように映像を使いながら、私たちをどこへ導こうとしているのかを見定めることだ。奇跡的な出来事の追体験だけなら、お笑いのDVDやYOUTUBEで十分事足りるし、そもそも展覧会というメディアをわざわざ使う必要もないからだ。そうすると、初期の作品、とりわけ《BABAISM》(2005)は、密着取材という方法論には共感できるにしても、そこには自分を守りながら他者を笑うという姿勢が一貫していることがわかる。にわかには信じがたい祖母の生態をネタとして笑うという構図だ。ところが、見る者にとって、そのようにして自己と他者を一方的に切り分けた映像は、撮影者である小鷹の悪意に加担することはできても、祖母の側に同一化することはできない。撮影者の視点をとおしてしか見ることのできない映像ほど退屈なものはない。映像の豊かさとは、映像に映されたモデルの視点から見た世界の光景を見る者に想像させることにあるからだ。そのような複眼的な構造が大きく開花するのは、《河童の捕まえ方を教えてもらうプロジェクト》である。河童の存在を自明の理として語る村人たちによる証言を集めたうえで、河童を釣る名人に教えを乞うドキュメンタリー風の映像は、嘘か真か決定できない宙吊り状態に観客を投げ込む。そうすることで村人たちの河童を見る視線にたくみに同一化させるため、見る者は河童が暮らす世界にうまい具合に入り込めるのである。

2010/08/26(木)(福住廉)

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