artscapeレビュー
瞳の奥の秘密
2010年10月01日号
会期:2010/08/14
TOHOシネマズシャンテほか[東京都]
ファン・ホゼ・カンパネッラ監督によるサスペンス映画。25年前に未解決のままにされた殺人事件を再捜査する物語が、罪と罰、過去の恋愛や友愛などのテーマを織り交ぜながら展開していく。この物語の根底にあるのは、おそらく時間と記憶と忘却だろう。友人を犠牲にしたばかりか真実を追究することもできなかった悔恨、犯人に傷つけられた心の治癒、かつて好意を寄せた女性への断ち切れぬ想い、そして真犯人を裁く正義と復讐。辛く悲しい記憶は一刻も早く忘れるに限るという言い方があるように、時間の流れのなかで、えてしてそうした心の襞はしだいに滑らかに変化していくものだ。けれども、忘れようにも忘れられず、心の根の部分でどうしても凹凸を平らにしがたいこともある。それは決してスマートな姿ではないのかもしれないが、その「変わることができないもの」に拘泥することにこそ、人間ならではの精神的な営みが現れることを、この映画は見事に描ききっている。
2010/09/01(水)(福住廉)