artscapeレビュー

足立喜一朗 SOAP/SOAP

2010年10月01日号

会期:2010/08/28~2010/09/26

NADiff a/p/a/r/t[東京都]

東京都現代美術館の「Space for future」展(2007-2008)にディスコを模した電話ボックスの作品を発表して注目された、足立喜一朗の新作展。ナディッフの地下空間と一階でそれぞれミラーボールをモチーフとした作品を展示した。地下には、鏡の破片を貼りつけた4つの球体をゆっくり回転させ、部分的にLEDライトを当てることで空間の壁面に無数の光を乱反射させた。立ち込めたスモークが光線を効果的に引き立てている。一方、地上では大きなガラスを支える枠組みに沿った形で十字架のようなオブジェを設置した。よく見ると、これも同じく表面を鏡の断片で覆われた棒状のもので、同じようにゆっくりと回転している。日中ではそれほどでもないが、外が夕闇になるにつれて、光の反射が強まると、ある種の神々しささえ感じさせる作品だ。表面の仕上がりや造形的な完成度から察すると、普遍的で崇高な美を追究するオーソドックスな作品のように見えるが、しかし足立の鋭い視線はそうした凡庸な美術の物語の先にまで到達している。回転する速度の歪さやモーターの騒々しい機械音は、作品の形式的な美しさを自ら相対化する仕掛けであり、そのことによって美の永遠性を信奉してやまない物語のフェイクを演じているわけだ。こうした二重の構えは、モダニズムという支配的な物語が実質的には失効しつつも、しかし制度的にはいまだに残存している現在の状況のなかでこそ、最も有効である。

2010/09/03(金)(福住廉)

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