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藤森照信展 諏訪の記憶とフジモリ建築

2010年10月01日号

会期:2010/07/24~2010/08/29

茅野市美術館[長野県]

建築史家で建築家の藤森照信による個展。構想を具現化したジオラマのほか、表面の仕上げに用いる建材の数々、これまでの作品を自ら解説した写真パネル、デッサンやスケッチが会場内に展示され、そしてこの展覧会のために制作された、UFOのように空中に浮かんだ茶室《空飛ぶ泥舟》が同美術館の広場で公開された。《空飛ぶ泥舟》というタイトルがすでに暗示しているように、藤森のこれまでの建築作品を見て気づくのは、それが宮崎駿の世界観と明らかに通底していることだ。フォルムの相似性はもちろん、アニメーションと建築というちがいはあるにせよ、どちらもファンタジーを具体的な形に仕上げる力量に長けているところも似通っている。表面や仕上げだけではない。今回展示された藤森の卒業制作《橋》にも《東京プラン2101》にも認められるのは、いずれも都市の廃墟を自然によって再生させるという構想だ。宮崎アニメがじつは強烈な厭世観によって成り立っているように、ファンタジックな藤森建築の底には現在の都市文明を否定する身ぶりが隠されている。あるいは、都市の破壊と再生をひそかに望むことこそ、すべての建築家に通じる原初的な欲望なのかもしれないが、それをあらわにしたという点でも、今回の展示はやはりすぐれている。

2010/08/27(金)(福住廉)

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