artscapeレビュー

2012年07月01日号のレビュー/プレビュー

加藤智大 個展「LIFe IS STEEL FULL!」

会期:2012/05/25~2012/06/16

TEZUKAYAMA GALLERY[大阪府]

首都圏を拠点に活動している加藤の関西初個展。これまでの作品は、キャンバスの代わりに鉄板を木枠に張った絵画や、日用品を鉄で細部まで精巧に模倣した立体などが知られている。本展では鉄製の茶室が発表された。建屋はもちろん、茶碗、茶筅、茶釜、掛軸、一輪挿しなどすべてが鉄製で、その徹底ぶりには驚くばかり。しかし、そのたたずまいは決してエキセントリックではなく、むしろシックで茶道の美意識にも叶っているように思われる。重量が気になるが、移動茶室として用いれば面白がる茶人もいるのではなかろうか。

2012/06/07(木)(小吹隆文)

本橋成一 写真展 屠場

会期:2012/06/06~2012/06/19

銀座ニコンサロン[東京都]

写真家の本橋成一の個展。食肉処理を施す屠場を映したモノクロ写真を展示した。撮影時期が比較的古いからだろうか、あるいは屠殺の現場だけでなく、その労働者たち自身にも肉迫しているからだろうか、本橋の写真には生物を食肉に加工する労働の手つきがたしかに感じ取れる。彼らが使う特殊な道具、空間の粗いマチエール、血液を洗い落とす放水の勢い。ともすると過剰に演出したくなる舞台を、即物的にというより、あくまでも労働の過程に沿って撮影しているのである。むろん、ここには未知の現場を広く知らしめるドキュメンタリーの要素が少なからず含まれているのだろう。ただ、それ以上に写真から強く印象づけられるのは、そのようにして労働の過程を追跡することによって、屠殺という文明社会の陰の一面をなんとかとらえようとしている本橋自身の姿である。彼らの生命を奪い取ることによって私たちの生命を保つこと。できることなら直視したくないこの自然の摂理を、本橋は身をもって目の当たりにしながらシャッターを切った。本橋の写真に現われている凄みは、屠殺という凄惨な現場に由来するというより、むしろその現場に立ち入った本橋自身の心持ちに端を発しているにちがいない。

2012/06/07(木)(福住廉)

いくしゅん〈ですよねー〉展

会期:2012/06/01~2012/06/27

LIXILギャラリー[東京都]

きわめて日常的なスナップ写真を壁面はおろか、天井にまで忍ばせ、床に山積みにして見せた写真展。凡庸な日常における決定的瞬間をとらえている点では、梅佳代のような独特の感性を感じさせるが、よくよく見ると、梅佳代にはない要素が強く打ち出されていることに気がついた。それは、暴力的な視点。たとえば自動車事故の現場を映した写真には、直接的な描写こそ避けられているものの、日常にひそむ不吉な暴力を巧みに映し出している。ユーモアのある決定的瞬間や中庸なモチーフを鮮やかな色彩と光でとらえた写真とともに展示されることで、その不穏な空気感がよりいっそう引き立っているところが、なんともおもしろい。

2012/06/07(木)(福住廉)

ザ・タワー──都市と塔のものがたり

会期:2012/05/23~2012/07/16

大阪歴史博物館[大阪府]

先日、電波塔として世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」が開業し注目を集めた。7月には大阪のシンボルタワー「通天閣」が開業100周年を迎えるという。同展は、このふたつのビックイベントにあわせて企画されたもの。エッフェル塔、東京タワー、通天閣など、19~20世紀にパリ、東京、大阪の3都市に建設された、近代を代表する塔が展示の中心となっている。予想通り、会場には塔の模型、設計図、関連資料、絵葉書などの記念品が紹介されていたが、なかでも目を引いたのは、塔を画題にした錦絵と、昭和30、40年代に発行された通天閣の観光葉書や東京タワーの案内パンフレット。時代を感じさせるどこか懐かしいデザインが多いが、高級車の前でポーズをとる若い女性をローアングルで撮った写真を表紙で大きく使用するなど、いま見ても斬新な構図の写真やレイアウトもあって興味深い(極端なローアングルは、東京タワーを写し入れるために必要だったかもしれないが)。また、二科展で入選暦のあるプロの画家が表紙や挿絵を手がけたものもあるようだ。企画者は「塔が街の中に建つことで、人は上から見下ろすという視点を得て、街全体を把握できるようになった。塔は人と街を結びつけるメディアである」という。塔は街の風景や生活を変えるだけでなく、人々の知覚パターンまでも変えてしまうのだ。同展は、塔と街と人との関わりを問いかけるものである。[金相美]

2012/06/07(木)(SYNK)

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対話する美術/前衛の関西

会期:2012/06/09~2012/07/29

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

同館の開館40周年を記念した展覧会。過去に企画展などを通じて収集した、戦後関西の現代美術作家17組を紹介している。会場構成は、最初に「カンヴァス上の格闘」と題して、須田剋太、津高和一、元永定正、白髪一雄らを紹介し、次からは、「物質と時間」(山口牧生×藤本由紀夫)、「世界を映す」(森口宏一×植松奎二)、「見えないもの」(石原友明×パラモデル)といった具合に、1室ごとに2作家が対峙するかたちを取っていた。作家や作品の数を増やそうと思えばできるものを、あえて作品数を抑えて贅沢な空間づくりに徹したのが素晴らしい。規模は決して大きくないが、最近美術館で見た展覧会のなかでも記憶に残るもののひとつである。

2012/06/09(土)(小吹隆文)

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