artscapeレビュー
2012年07月01日号のレビュー/プレビュー
中島麦 僕は毎晩、2時間旅をする─アクリル絵具の色・瞬間─
会期:2012/06/26~2012/07/15
サクラアートミュージアム[大阪府]
通勤等で電車の車窓越しに見た風景をもとに、ドローイングやペインティングを制作する中島麦の個展。ドローイング、ペインティングとも25点が展示された。ドローイングで半抽象化された風景は、ペインティングで更に単純化が進み、なかにはシンプルかつ鮮やかな色面に生まれ変わった作品も。作風はこれまでと同様だが、会場の2室をドローイングとペインティングに分けたこと、吹き抜けによりその2室が連続していたこと、出品作が大作揃いだったことがよい方向に作用して、一作家の思考の変遷が手に取るように理解できる、見応えのある展覧会に仕上がっていた。
2012/06/26(火)(小吹隆文)
プレビュー:リアル・ジャパネスク:世界の中の日本現代美術
会期:2012/07/10~2012/09/30
国立国際美術館[大阪府]
1970~80年代生まれの日本人美術家9名(泉太郎、大野智史、貴志真生也、佐藤克久、五月女哲平、竹川宣彰、竹崎和征、南川史門、和田真由子)を起用した展覧会。この世代の課題を、欧米美術の行き詰まりに基づく価値観の多様化、1960年代生まれの美術家の仕事の超克、美術情報の氾濫、と規定し、その状況に知的かつ誠実に対応する事例として彼らの仕事を位置づける。同館で昨年に開催された「世界制作の方法」以来となる若手日本人作家の企画展だけに、期待が高まる。
2012/06/30(土)(小吹隆文)
プレビュー:現代美術二等兵活動二十周年記念「駄美術大博覧会」
会期:2012/07/13~2012/07/25
HEP HALL[大阪府]
お菓子に駄菓子があるように、美術界に“駄美術”があってもいいじゃないか。そんなすっとぼけたコンセプトを引っ提げ、おやじギャグも真っ青の腰砕け系お笑いアート作品をつくり続けている現代美術二等兵(籠谷シェーンとふじわらかつひとによるアートユニット)。彼らの活動二十周年を記念して、新旧作品100点以上を集めた一大イベントが開催される。「二十周年」や「記念」というアニバーサリーな響きに惑わされることなかれ。彼らの活動はひたすら馬鹿馬鹿しく、ナンセンスなのだから。呆れ、笑い、脱力して、いつの間にかわが身に沁みついたハイアートの垢をこすり落とす。それが本展の正しい楽しみ方だ。なお、本展は10月に京都に巡回。12月には東京展も予定されている。
2012/06/30(土)(小吹隆文)
プレビュー:パディントン ベア™展──イギリスで誕生した愛らしいクマの物語
会期:2012/07/07~2012/09/02
伊丹市立美術館[兵庫県]
帽子とダッフルコートを着た愛らしいクマのキャラクターとして知られる「パディントン」の原画展。2012年5月まで東京で開催された「パディントンベア原画展」(池袋西武本店)の関西巡回展だが、関西のみの出品作も加わり、内容をヴォリュームアップして開催される。とくに注目すべきは、1970年代にイギリスの新聞で連載された四コマ漫画の原画が今回、特別に展示されることだろう。同原画の作者であるアイバー・ウッドは、BBCで放映されたパペットアニメ版も手がけており、パディントンを描いた数多くのアーティストのなかでも、そのヴィジュアルイメージの確立に貢献した人物といえる。実際、このクマのキャラクターは、1958年刊行のマイケル・ボンドの児童小説の挿絵として初めて登場して以来、小説の絵本化や漫画化、アニメ化、キャラクターグッズとしての商品化等を経てきており、その間、異なるアーティストが制作にかかわることで、パディントンの描かれ方も徐々に変化してきた。本展では、ペギー・フォートナムが手がけた最初の挿絵の原画を初め、フレッド・バンベリーやデヴィッド・マッキーなど、さまざまなアーティストによる絵本等の原画も時代を追って展示される。そこに、イラストレーションのスタイルの変遷や、表現媒体の差異が生み出すキャラクター表現の変化の反映を見出すのも本展の楽しみのひとつだろう。さらには、ボンドゆかりの品やパペットアニメ化の資料、貴重なぬいぐるみも展示される。日本ではパディントンは、1980年代にソニープラザがそのグッズを扱ったことで一躍知られるようになったが、東京展は連日、そのノスタルジーに浸る声で溢れかえっていたらしい。つまり、パディントンは、キャラクタービジネスの元祖ともいうべき存在であり、そのメディアミックス的展開の側面をも概観する本展は、子どもはもちろん大人の美術愛好者も楽しめる内容だ。東京で好評を博した公式限定グッズも、今回、ミュージアムショップで販売されるそうで、それもまた楽しみだ。[橋本啓子]
2012/07/02(月)(SYNK)
プレビュー:トヨタコレオグラフィーアワード2012、Nibroll『see/saw』
今月は二年に一度の一大イヴェント、トヨタコレオグラフィーアワード2012(最終審査会:2012年7月22日@世田谷パブリックシアター)が開催される。「コンテンポラリー・ダンス」という言葉では括りきれない今日のダンス振付家たちが競う。チェルフィッチュの岡田利規など、演劇系の作家が参加してきたことでも知られているが、今回は篠田千明がどういったパフォーマンスを見せ、どうダンスの現場を揺さぶるかに話題が集まりそうだ。
今月忘れてはならないのは、Nibroll(ニブロール)の新作『see/saw』(2012年7月20~8月12日@ヨコハマ創造都市センター)。結成から15年目となる今年、Nibrollは音楽、美術、衣裳、映像などの作家集団から、振付の矢内原美邦を中心としたダンスカンパニーとして再出発した。先日、10年前の旧作を映像で見ていたのだが、キレる若者を表象していると言われたあのころの上演が牧歌的だなと思ってしまうほど、近年のNibrollは猛烈に速く強くアグレッシヴで、他の追随を許さない独特の方向を進んできたにもかかわらず、その選択が今日のNibrollに現代的なリアリティを与えているのだなと再確認させられた。今作は3週間、10公演を超える初のロングラン公演としても話題となっている。映像作家の高橋啓祐と矢内原によるoff-Nibrollの新作『a quiet day』も『see/saw』上演前に披露される予定。これは日替わりで出演者が変わる1人芝居だそうだ。
2012/07/02(月)(木村覚)