artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

大竹昭子「Gaze+Wonder NY1980」

会期:2012/10/19~2012/10/27

ギャラリーときの忘れもの[東京都]

実は今回展示された大竹昭子のニューヨークの写真には、個人的な思い出がある。1981年に彼女が帰国した直後に、共通の知り合いの家でプリントをまとめて見せてもらったことがあるのだ。今となっては記憶もかなり薄れてしまったが、冬のニューヨークの寒々とした、ざらついた空気感が、モノクロームのプリントに刻みつけられていたことを覚えている。その後の大竹のエッセイ、紀行文、小説、評論などさまざまな領域にわたる活躍ぶりはよく知られている通りだ。写真評論の分野でも『彼らが写真を手にした切実さ──《日本写真》の50年』(平凡社、2011)など、いい仕事がたくさんある。そんな大竹が、満を持して1980~81年のニューヨーク滞在時の写真を出してきたということには、やはり表現者としての自分自身の原点を確認したいという思いがあったのではないだろうか。
今回展示されたのは、41×50.8cmのサイズの大判プリントが15点と、すでにポートフォリオとして刊行されている20.3×25.4cmサイズのプリントが12点である。両者に共通しているのは、人影がほとんどない路上の光景が多いことで、被写体との距離のとり方に、当時の大竹のあえて孤独を身に纏うような姿勢が投影されているように感じる。被写体に媚びることなく、カメラを正対させて風景の「面」を正確に写しとろうとする、そのやり方はその後の大竹の文章の仕事にも踏襲されていくものだ。どこか禍々しい気配が漂う犬の姿が目立つのも特徴のひとつで、路上で犬を見かけると本能的にシャッターを切っている様子がうかがえる。人よりも犬に親しみを覚えるような風情も、ニューヨークのダウンタウンのソリッドな光景によく似あっている。いい展示だった。なお、展覧会にあわせて、写真とエッセイをおさめた『NY1980』(赤々舎、2012)も刊行されている。

2012/10/19(金)(飯沢耕太郎)

3.11──東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか(香港展)

会期:2012/10/19~2012/11/07

香港中文大学[香港]

筆者が監修した「東日本大震災の直後、建築家はどう対応したか」展が、香港中文大学の完成したばかりの建築棟で開催された。いろいろな場所で設置できるように制作した展示システムだが、きれいにおさまっている。製図室や学生の雰囲気は、日本とさほど違わない。オープニングでは、テープカットの後、筆者が震災の影響、展覧会概要、研究室の活動について、建築家の朱競翔が四川地震後の学校建設について、そして迫慶一郎が四川地震と東日本大震災の後のそれぞれのプロジェクトについてレクチャーを行なう。
数えてみると、香港は5回目である。最初は学生のときで中国に返還前だった。今回は3日弱しかなく、ワンチャイで香港日本人商工会議所と会食・意見交換をした以外は、ホテル/大学=展示会場から近い沙田で駅に隣接するショッピングセンターとスヌーピーズ・ワールドを見たくらい。何人かの建築家やアーティスト、現地の人と話しをしてわかったのは、やはり中国本土と香港では、だいぶ意識が違うこと。普段からの日本に対する態度もだ。愛国教育批判やアイ・ウェイウェイの解放運動さえ行なわれている。

写真:上から、「3.11展」香港会場、「3.11展」展示風景、スヌーピーズ・ワールド

2012/10/19(金)(五十嵐太郎)

児玉靖枝「深韻──風の棲処」

会期:2012/10/04~2012/10/28

ギャラリー21yo-j[東京都]

大中6点の展示。6月に京都で見たときは、以前からの木の枝を描いたシリーズだけでなく海中の絵があったので、今回も見られるかと思ったら、海中シリーズはひと区切りついたらしく再び木の枝に戻っていた。木の枝といっても2点は秋らしく枯葉色に染まった木立の風景を描いたもので、4点が樹木を見上げた枝葉の情景。よく見ると、前者2点は木立のオーカーを基調に空の青灰色がのぞくのに対し、後者4点は逆に、大きく塗られた青灰色の空をバックにオーカーの葉を描いている。絵が相互に呼応し、展示全体でひとつの作品(インスタレーション)として成立している。いや展示室内だけでなく、窓から見える木立も含めて体感してもらおうとしているのかもしれない。今回は自然光で見てもらうため午後5時で閉廊というのもそのことを裏づけている。

2012/10/21(日)(村田真)

比果彩「CAMPEE」展

会期:2012/10/16~2012/10/21

KUNST ARZT(クンスト・アルツト)[京都府]

マニキュアで描いた絵画作品がミラーボールが回って照らされる空間に展示されていた。隣のスペースにはハサミやナイフをキラキラ光るビーズやスパンコールなどのいわゆる“デコ”パーツで装飾したオブジェもある。比果彩は1988年生まれ、京都市立芸術大学修士課程美術研究科に在籍するまだ若い作家だ。画材や素材がそのようなもののせいもあり、会場を見まわしただけでは「ああ、いまどきの若い女の子(の感覚)だ」という雰囲気もあるのだが、作品をじっくりみるとそんなイメージはあっさり払拭される。まずなにより絵が巧い。少し離れて見ると、描かれた風景がドラマチックに変化して見えるのも面白かった。回転するミラーボールの影響で画面のあちこちが晴れた日の水面のようにキラキラと光る。近くで見るとどれほど丁寧に塗り重ねているのだと感心するほどマニキュアの色も層も多彩。画力と労を厭わない作家の真面目な性質もうかがえた。これからも活躍が楽しみだ。


展示風景。ミラーボールの照明とマニキュアで描いた絵画作品

2012/10/21(日)(酒井千穂)

かすみ荘

会期:2012/10/19~2012/10/23

グローリアビル[東京都]

都内のビルの空室をねらい、一時的に作品を展示していくプロジェクト「ヤドカリトーキョー」の第5回。今回は首相官邸、内閣府、議員会館などが建ち並ぶ霞ヶ関の一画のオフィスビルに間借りした。出品は荻野僚介、門田光雅、村上郁ら12人で、作品的にスゴイ!ってのはなかったけど、ちょっと投げやりな展示に考えさせられた。こういう日常的な空間に作品を設置するとき、その場所に応じたサイトスペシフィックな展示を試みるか、さもなければ美術館のようにスキのない展示を目指すものだが、この展覧会はどちらでもない。絵画や写真は壁に固定するのではなく立て掛けただけだし、彫刻やインスタレーションもただ置いただけのように見える。おそらく壁に釘を打ってはいけないとかいろいろ制約があるのだろうが、展示に凝ったり規制をクリアしたりすることに時間を費やすより、可能な限り多くの場所で見せていきたいとの思いのほうが強いのだろう。とにかくやれるところでやって次行っちゃえ、みたいな風の又三郎的疾走感が少し新鮮だった。

2012/10/22(月)(村田真)

2012年11月15日号の
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