artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

あいちトリエンナーレ2013 公式グッズ・デザインコンペティション 公開プレゼンテーション+公開審査会

ナディアパーク 2階アトリウム[愛知県]

あいちトリエンナーレ公式グッズのコンペの審査を行なう。建築学生のコンペなどではアイデアが評価の対象となり、それが実現されることはまったく前提にならないが、プロダクトのコンペは、モックアップで実物が提示され、商品化が可能かどうかが審査に含まれ、だいぶ違う。議論では、どうしたらコストダウンできるかなども話題になった。結果は地元の伝統産業を生かした名古屋芸術大学のテキスタイル、扇千花研究室が最優秀となる。また名古屋建築グッズを提案した愛知淑徳大の清水研と、「→」グッズの椙山女学園の橋本研が次点に選ばれた。それぞれグッズの実現化に向けて、スタートを切ることになった。

2012/10/14(日)(五十嵐太郎)

美術にぶるっ! ベストセレクション 日本近代美術の100年

会期:2012/10/16~2013/01/14

東京国立近代美術館[東京都]

開館60周年を記念するコレクション展。華やかさには欠けるけど、ほかの美術館から有名作品を借りて祝うより、たとえ貧弱でも自前のコレクションを精一杯見せるほうが誠実だし、好感がもてる。でもタイトルのように「ぶるっ」た作品がはたしてどれだけあっただろうか。たとえば岸田劉生《道路と土手と塀(切通之写生)》とか関根正二《三星》とか橋本平八《幼児表情》とか、たまにぶるってもプチぶる程度。もう少しぶるっちゃう作品はようやくその後に出会う。戦争記録画だ。宮本三郎《山下、パーシバル両司令官会見図》にしろ藤田嗣治《サイパン島同胞臣節を全うす》にしろ、色彩は暗いけど、やっぱり密度や緊迫感が違うなあ。戦争記録画が終わってしばらく行くと、妙に明るく乾いた現代美術が目に飛び込んできて面食らう。なんかヘンだなあと思いつつ外に出たら、第2部「実験場1950s」の入口があった。そうか50年代が抜けてたんだ。こちらは全国の美術館から作品を借りての大展開。でもなんで50年代だけ拡大するの? と思ったら、近代美術館ができたのが1952年だからということらしい。そのため50年代美術を紹介するというより、写真やイラスト、デザインも含めて時代気分を浮かび上がらせようとしている。こんな大変な時代に近美はスタートしたんだと。

2012/10/15(月)(村田真)

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畠山直哉『気仙川』

発行所:河出書房新社

発行日:2012年9月30日

本書の刊行前に見本を送っていただいた。それをざっと眺めて、とてもよく練り上げられたいい写真集だと思ったのだが、そのままページを閉じてしまった。写真をじっくりと見て、そこに添えられたテキストを読むことに、ある種の畏れとためらいを感じてしまったからだ。
なぜ、そんなふうに感じたのかといえば、言うまでもなく本書の成り立ちについて、あらかじめ知る立場にいたからだ。畠山直哉の実家がある岩手県陸前高田市気仙町は、東日本大震災が引き起こした大津波で大きな被害を受けた。実家は津波で流失し、母親は遺体で見つかった。その一連の出来事を受けとめ、咀嚼し、あらためて具現化した成果は、昨年、東京都写真美術館で開催された個展「ナチュラル・ストーリーズ」で発表された。それが本書を構成する二つのシリーズ、「気仙川」と「陸前高田」である。震災から1年半が過ぎたこの時点で刊行された写真集『気仙川』は、それゆえ畠山があの極限状況のなかで、何を考え、どのように行動したのかを報告する生々しいドキュメントとなる。その息苦しさが、写真集のページを繰ることにためらいを生じさせたのだ。
約1カ月後に、ようやく最後まで読み(見)通すことができた。この写真集はやはり畠山の仕事としてはかなり異例な造りになっていた。特に前半部の「気仙川」のパートに添えられたテキストの緊張度はただならぬものがある。地震の第一報を聞いて3日後にオートバイで陸前高田に向かう、その道程の出来事が、瘡蓋を引き剥がすような痛切な文体で綴られているのだ。それが2000年頃から折りに触れて撮影していた、安らぎに満ちた故郷の風景と交互にあらわれてくる。「気仙川」をこのような造りにしなければならなかった所に、彼が味わった「今までの人生で経験したことがないほどの痛烈な刺激」の凄まじさが、端的にあらわれているのではないだろうか。
だが、震災が来るまでは「un petit coin du monde(地球=世界の小さな一角)」と記された箱におさめられて、ひっそりと眠っていたというこれらの写真群は、このような緊急避難的な構成のなかではなく、もっと別な形で見たかった気もする。「気仙川」は写真家・畠山直哉にとって、とても大事なシリーズとして育っていく可能性を秘めていると思うからだ。彼がこれまで撮影・発表してきた「大きな眺め」にはなかった、柔らかに被写体を包み込み、震えながら行きつ戻りつして進んでいくような視線のあり方を、このシリーズでは見ることができる。「un petit coin du monde」の箱におさめられるべき写真を、これから先も撮り続け、これらの写真と繋いでいってほしいものだ。

2012/10/15(月)(飯沢耕太郎)

坂本夏子 新作展「Still Life」

会期:2012/10/11~2012/11/10

ケンジタキギャラリー/東京[東京都]

坂本夏子というと、遠近法的にちょっと歪んだ格子状の空間に数人の人物がいる絵(と書いて河原温の「浴室」シリーズを思い出した)の人かと思ったら、今回は違った。暗い背景に青灰色で不定形のイメージをザワザワと描いている。風景にも群像にも静物にも見えるがそのいずれでもなく、かといって抽象と呼ぶにはモノの気配が残る。タイトルは「Still Life」なので静物に基づいたイメージなのだろう。以前よりいちだん深みに入り込んだ印象があるが、これは深化(進化)なのかどうか。

2012/10/16(火)(村田真)

篠山紀信 展「写真力」

会期:2012/10/03~2012/12/24

東京オペラシティアートギャラリー[東京都]

美空ひばり、三島由紀夫、きんさんぎんさん、山口百恵、長嶋茂雄、AKB48、ジョン・レノン、宮沢りえ、歌舞伎、ディズニーランド、大相撲……。もうメジャーしか撮らない。メジャーをメジャーにしか撮らない。と思ったら、最後に東日本大震災の被災者たちのポートレートがあった。さすがに東日本大震災くらいメジャーになると撮ってみたくなるのか。でもそこは控えめにモノクロで。アッパレというしかない。

2012/10/16(火)(村田真)

2012年11月15日号の
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