artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

磯部昭子「U r so beautiful」

会期:2012/10/15~2012/11/01

ガーディアン・ガーデン[東京都]

リクルート主催の「1_WALL」展(前身は「写真ひとつぼ展」)やキヤノン主催の「写真新世紀」のような、主に若い写真家たちを対象にしたコンペで、広告写真やファッション写真のジャンルに属する仕事をする写真家が賞をとることはめったにない。日本は比較的アートとコマーシャルの間の境界線が緩やかな国のひとつだが、それでも表現領域の違いというのは厳然としてあるようだ。その意味で、「写真ひとつぼ展」の入選者(グランプリ受賞者を除く)から選出されて、あらためて作品を展示する「The Second Stage」という枠で個展を開催した磯部昭子は、やや特異な例と言えそうだ。
むろん、今回の「U r so beautiful」の展示を見ても、一概に磯部の作品をコマーシャル的と決めつけることはできないのではないかと思う。ただ、やや奇妙な風貌の人物たち、スタイリッシュなオブジェを、自動車のヘッドライトのような人工光で照らし出すという手法そのものが、どう見てもファッション写真ぽいと言えるし、彼女の経歴や活動の基盤がコマーシャル・フォトであることはまぎれもない事実だ。むしろそのことが、ガチガチに凝り固まったシリアス・フォトにはない遊び心、発想の飛躍を生んでいるのではないだろうか。特に面白かったのは、脚や手など身体の一部をクローズアップして、他のオブジェとコラージュするように構成した一連の作品。そこには、日常のなかに非日常が紛れこむ、「等身大の虚構の構築」とでも言うべきユニークな作風が芽生えはじめているように感じた。

2012/10/16(火)(飯沢耕太郎)

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初沢亜利「Modernism 2011-2021 東北・東京・北朝鮮」

会期:2012/10/04~2012/10/30

東京画廊+BTAP[東京都]

初沢亜利のような写真家について論じるのはむずかしい。彼の撮影のポジションは、「東北・東京・北朝鮮」という今回の展示の撮影場所を見てもわかるようにフォト・ジャーナリストのそれと重なりあう。実質的なデビュー作の「Baghdad2003」は、イラク戦争下のバグダッドで撮影されたものだった。
だが、今回の展示場所が現代美術を主に扱うギャラリーであることを見てもわかるように、作品の発表の仕方は従来のフォト・ジャーナリズムの枠にはおさまらず、そこからはみ出してしまう。初沢のようなタイプの写真家は彼ひとりではなく、かなり増えてきている。アート、報道、コマーシャルといった慣れ親しんだ写真のジャンル分けが、完全に解体しはじめていることのあらわれとも言えそうだ。
今回の「Modernism 2011-2021 東北・東京・北朝鮮」は、彼が覚悟を決めて撮影した意欲作である。震災直後の2011年3月12日から東北各地の被災現場を撮影しながら、初沢は前後4回にわたって北朝鮮に渡った。その合間に、彼のベースキャンプとでも言うべき東京も撮影し続けていた。展示された写真には、母親の葬儀の光景のようなプライヴェートな場面も登場する。そこに添えられた「Modernism」という言葉に、初沢の批評意識を見ることができるだろう。つまり19世紀以来営々と気づき上げられてきた「モダン」の枠組が、今や至るところで破綻しつつあり、彼が選んだ三カ所はまさにその最前線と言うべき場所なのだ。
写真を見ているうちに、それらの場所がどこか似通っているように感じてくる。東京はもちろん、東北の被災地や北朝鮮ですらも、消費文化の影に覆い尽くされている。90枚の大四つ切サイズの写真を2段に、アトランダムに並べた写真構成がうまく効いているのだが、このような展示は諸刃の刃のように思えてならない。観客の意識が、それぞれの写真がどこで撮られたのかを確認することに集中してしまい、それ以上深みへと広がっていかないからだ。キャプションをすべて排除したことも含めて、この連作の見せ方にはさらなる工夫が必要なのではないだろうか。
なお、今回の展示のうち「東北」のパートはすでに写真集『True Feelings 爪痕の真情。』(三栄書房)として刊行されている。「北朝鮮」のパートも11月中に写真集『隣人』(徳間書店)として刊行予定だ。これらの写真集をあわせて見ることで、彼の作品世界の広がりを確かめることができるはずだ。

2012/10/16(火)(飯沢耕太郎)

石橋義正『ミロクローゼ』

会期:2012/11/24より劇場公開

テアトル梅田[大阪府]

登場人物がすべてマネキンのショートドラマ『オー!マイキー』で知られる石橋義正監督、山田孝之主演の『ミロクローゼ』の試写会。3つのラブストーリーで構成されているのだが、それぞれの物語は、少しずつ時空が重なりながら展開し、ひとつの長編ドラマをつくっている。カット割りがテンポ良くリズミカルで、畳み掛けるようなセリフや物語のスピード感とそれがピタリと止む“まったり”感のメリハリも、一人で三役を演じ分ける山田孝之の見事な演技も、ポップなヴィジュアルイメージやファッションも刺激的。石橋義正ワールド炸裂といった感のある見どころの多い映画だ。この日は監督の舞台挨拶もあったのだが、構想から公開までには8年近く、(関西での)公開までには10年近くも年月がかかったとのこと。『オー!マイキー』のファンでなくても楽しめる映画。11月24日から劇場公開される。

2012/10/18(木)(酒井千穂)

始発電車を待ちながら──東京駅と鉄道をめぐる現代アート9つの物語

会期:2012/10/01~2013/02/24

東京ステーションギャラリー[東京都]

東京駅復元工事完成記念てなことで、ギャラリーの位置も駅舎の北端に移って再開。サブタイトルのように9組のアーティストたちが鉄道や東京駅にまつわる作品を出している。わざわざ今回のためにつくったコミッションワークも多く、主催者の意気込みが伝わってくる。が、パラモデル、クワクボリョウタ、秋山さやからの作品はこれまで何度も見たことがあるので新鮮味はない(でも日用品のなかを鉄道模型を走らせるクワクボのインスタレーションは何度見ても飽きない)。初めて見たなかでおもしろかったのは、パスモなどの交通ICカードを装置にかざすと、利用した路線がスクリーンの地図に浮かび上がるという廣瀬通孝の《Sharelog 3D》(シェアログ? シャレログとも読める)。見てたら、おっさんが財布からカードを取り出してかざすと都心と足立区方面を光がつないだ。下町のおやじだ。今度は若い女の人がカードをかざしたら、都心と世田谷方面を光が走った。お、都心で働く世田谷在住のOLかな。これじゃ個人情報がもれてしまうではないか。

2012/10/19(金)(村田真)

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シャルダン展──静寂の巨匠

会期:2012/09/08~2013/01/06

三菱一号館美術館[東京都]

絵画の黄金時代17世紀と近代の幕開け19世紀にはさまれた18世紀は、美術史的にはどうもあまりパッとしない。そのパッとしない時代にひっそりと咲いた花がシャルダンだ……。程度の認識しかなかった。シャルダンもフェルメールと同じように死後しばらく忘れられ、19世紀なかばに再発見されたという。しかも闇のなかから発掘したのがフェルメールを再評価したトレ・ビュルガーだったというのもうなずける。どちらも風俗画で名をなした庶民の味方だからね。でもシャルダンは静物画も多く残していて、今回は個人コレクションのため非公開だった《木いちごの籠》も来ている。赤い木いちごが山盛りに盛られた抽象度の高い作品だ。後半、シャルダンの影響を受けたとおぼしきミレー、ルドン、セザンヌらの作品も展示されていてちょっと首を傾げたが、なるほど《木いちごの籠》を見るとセザンヌが影響を受けた理由がわかる。セザンヌは「自然を円筒形、球形、円錐によって扱い……」と述べたが、この絵にはちゃんとグラスが円筒形、スモモとサクランボが球形、そして山盛りの木いちごが円錐形に描かれているのだ。それだけでなく、グラスの口が底面よりやや開いた楕円形に描かれているのもセザンヌを彷彿させる。どうやらフェルメール─シャルダン─セザンヌをつなぐ美術史の隠れた線が浮かび上がってきたぞ。これは発見!

2012/10/19(金)(村田真)

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2012年11月15日号の
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