artscapeレビュー

2012年11月15日号のレビュー/プレビュー

牛島光太郎 展「意図的な偶然」

会期:2012/10/03~2012/10/27

LIXILギャラリー[東京都]

台の上に割れたカップ、耳のとれた馬のおもちゃ、ボタンやコインなどのガラクタが置かれ、それにまつわるエピソード(文章)が布に縫いつけられている。これらのエピソードが本当の話なのか、それともガラクタを拾ってきてから考えついたウソなのかわからないが(インタビュー記事によれば「すべて実話」)、そんなことはどうでもいい。肝腎なのは、これらの文字がコンセプチュアルアートのように印刷ではなく、手縫いの刺繍である点だ。もしこれが印刷だったらウソっぽく感じられるし、読む気になれないだろう。でも最近は刺繍の作品も多いからなあ。

2012/10/19(金)(村田真)

建築を彩るテキスタイル──川島織物の美と技

会期:2012/09/06~2012/11/24

LIXILギャラリー[東京都]

江戸末期に京都で創業した川島織物は、明治維新とともに呉服商から織物貿易へと事業を転換していく。その目玉となったのが、若冲をはじめとする名画を綴織で再現した美術織物。これを壁に掛けて室内装飾としたというから、西洋のタペストリーと似たようなもんだろう。戦前にはセントルイス万博やパリ万博にも出展している。こうした美術織物にしろタペストリーにしろ、色のついた糸を織って1枚の絵にするのだから、布の上に絵具を塗る絵画より耐久性がありそうなもの。たしかに織物だから絵具の剥落はないものの、退色の心配があるかもしれない。結局、絵画(とりわけ油絵)がいちばん長持ちする。

2012/10/19(金)(村田真)

自画像★2012──9人の美術家による新作自画像と小品展

会期:2012/10/01~2012/10/20

ギャラリー58[東京都]

(赤瀬川原平+秋山祐徳太子+池田龍雄+石内都+篠原有司男+田中信太郎+中西夏之+中村宏+吉野辰海)÷9≒75.8。平均年齢75.8歳の自画像展。赤瀬川は頭蓋骨の斜め後から撮ったスキャン画像を鉛筆画に起こしたもの。タイトルの《ハレーション》は銀歯によってスキャン画像が乱れたから。同じ角度から生身の自画像も描いている。池田は1歳のときの写真と83年後の今年描いた自画像を対比させている。これは最年長だから価値がある。ギューちゃんは相変わらず威勢のいいボクシングペインティングを出していて、とても80歳とは思えない。この人は絶対枯れないだろう。こういうジジーに私もなりたい。

2012/10/19(金)(村田真)

中谷ミチコ展「ドローイング2007-2012」

会期:2012/10/18~2012/11/25

MZ arts[神奈川県]

横浜・日ノ出町にオープンしたMZアーツ。井田照一に続く第2弾の中谷は、人物や動物のレリーフや逆レリーフ(浮き彫りならぬ「沈み彫り」)作品で最近注目を集める若手アーティスト。今回はレリーフではなく、ここ5年ほどのドローイングを集めた展示。20代の5年間というともう少し起伏や変化があってよさそうなものだが、彼女の場合どれも高水準を保っていて「うまい」と感じさせる。価格も安いせいかけっこう売れていた。

2012/10/19(金)(村田真)

巖谷國士/桑原弘明「窓からの眺め」

会期:2012/10/06~2012/10/28

LIBRAIRIE6[東京都]

フランス文学者でシュルレアリスムの研究家としても知られる巖谷國士にとって、写真は余技に思える。だが個展も5回目ということで、もはやその域は超えていると言うべきだろう。というより、巌谷のような多彩な領域に関心のある作家にとっては、写真もシリアスな仕事として取り組んでいることが、作品から充分に伝わってきた。今回のスコープ・オブジェ作家の桑原弘明との二人展を見ると、何をどのように撮るのかという写真家としての「眼」が、揺るぎなくでき上がっているのがわかる。
展示では、1990年代以降に撮影された旧作と、今年になって集中して撮影したという新作が両方並んでいた。どちらかと言えばパリ、ヴェネツィア、パレルモ、ジェノバ、プザンソンなど、ヨーロッパ各地を旅しながら撮影した新作の方に、彼ののびやかな心の動きがそのまま写り込んでいるような楽しさを感じた。写っているのはタイトル通り「窓からの眺め」が多い。丸、あるいは四角で区切られた眺めが、繊細な手つきで、あたかも箱の中に封じ込められた小宇宙のように捉えられている。特に桑原がセレクトしたという、ポストカードほどの大きさの小さな写真がまとめて並んでいる一角は、互いの作品が響きあって心地よいハーモニーを奏でていた。
風景やインテリアの写真が多いのだが、2点だけ街頭のスナップショットがあって、それがまたよかった。旧作ではあるが、特にバイヨンヌで1990年代に撮影された「縄跳びの少女」の写真が素晴らしい。二人の少女たちがつくる縄跳びの輪の中に、ふっと誘い込まれそうな気がしてくる。巖谷にはぜひ写真の仕事を続けていってほしいものだ。

2012/10/19(金)(飯沢耕太郎)

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