artscapeレビュー

2015年07月01日号のレビュー/プレビュー

磯山晴美展

会期:2015/06/02~2015/06/14

LADS GALLERY[大阪府]

紙に刺繍を施した平面作品を出品。刺繍といっても図柄や模様を縫うのではなく、長短さまざまな線の集積を糸で表現している。また、一部の作品はガラス片などを用いてコラージュを施していた。無造作なようでいて実は周到な配慮に基づいて構成された作品は、理知的な抽象絵画としての側面と、クラフトのような手作りの質感を併せ持っている。それゆえ現代美術に不慣れな人でも抵抗なく受け入れられるだろう。作者は岡山県在住で、元々は絵画を制作していた。本展でも数点だが、絵画作品を出品している。

2015/06/02(火)(小吹隆文)

金沢の町家──活きている家作職人の技

会期:2015/06/04~2015/08/22

LIXILギャラリー[東京都]

戦災や震災に遭うことなかった城下町・金沢には、いまでも古い町家──住まいと生業が共存する都市住宅──が数多く見られる。そうした町家が保存され、手入れされ、使い続けられるためには、伝統的な家作技術を持った職人たちが存在し、その技術が受けつがれていかなければならない。金沢はこのような町家や歴史的資産があることで、伝統的技術への需要があり、そうしたなかで職人が育成され、技術が受け継がれているという。展覧会では、町家の家作に必要な技術から7種類の技──大工・石工・瓦・左官・畳・建具・表具──の職人たちに焦点をあてて、道具、材料の展示と、職人へのインタビューやパネル展示によって技術とその継承のありかたを紹介している。全国的に伝統的技術の後継者は減っている。技術への需要が減っていることはもちろんだが、かつての徒弟制が成立しなくなり技術を継承するシステムが崩れてしまっていることも理由だ。そうした状況で金沢で行なわれている取り組みのひとつが1996年に職人の組合によって設立された「金沢職人大学校」である。ここでは基本的な技能を習得した職人を対象に、伝統的な職人文化を学ぶと同時に、熟練技能者である講師からより高度な技術が教授されるほか、武家屋敷の修復など実践的な仕事の機会を生み出しており、展示ではその活動についても触れられている。職人たちへのインタビューを読むと、技術の伝承ばかりではなく、道具や原材料の確保が困難になってきていることも喫緊の課題で、伝統的技術の継承のありかたが示されていると同時に、それらをとりまく環境の厳しさも伝わってくる。[新川徳彦]

2015/06/03(水)(SYNK)

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伊東豊雄 展「ライフスタイルを変えよう──大三島を日本で一番住みたい島にするために」

会期:2015/06/04~2015/08/22

LIXILギャラリー[東京都]

瀬戸内海に浮かぶ人口約6,500人の大三島。2011年に「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」がオープンしたことをきっかけに、伊東建築塾の塾生たちが島を定期的に訪れるようになり、島の人々との交流が始まった。そうしたなかで、伊東氏と塾生たちが2015年から10年計画で「大三島を日本で一番住みたい島にするために」というスローガンのもとで「独自の島づくり」に取り組むことになった。この展覧会はそのプロジェクトの課題とモデルとを提示する構成。訪れる人びとを不思議に魅了するという大三島はこれまで大きな開発はほとんどなされていない。そうした島において、地域に暮らす人々、Iターンなどの移住者、外国人が多いというサイクリストなどが互いに交流できるような場をつくり、新しい食材や商品を開発し、島の魅力を訴えると同時に住みやすい、暮らしやすい環境をつくっていくことを目指しているという。伊東豊雄氏に話を伺ってとても興味深く感じたのは、このプロジェクトが自治体や大資本の依頼によるものではなく、伊東氏や塾生たちが地元の人々と交流するなかで自然に醸成されてきたことである。年度毎の予算の縛りのなかで与えられた課題を解決するのではなく、明確な着地点が設定されている訳でもなく、終わりのない日常の営みのなかに新しいライフスタイルを提案してゆくのだ。その取り組みによって地域の良さがどのように引き出され、発信されてゆくのか、プロジェクトの行方に注目したい。[新川徳彦]


展示風景

2015/06/03(水)(SYNK)

モダン百花撩乱──大分世界美術館

会期:2015/04/24~2015/07/20

大分県立美術館[大分県]

「大分が世界に出会う、世界が大分に驚く『傑作名品200選』」と銘打ち、大分県立美術館の開館記念展Vol.1として開催された展覧会。会場は5部構成。第1章「モダンの祝賀」、第2章「死を超える生・咲き誇る生命」、第3章「日常の美 人と共に生きる〈もの〉と〈かたち〉」、第4章「画人たちの小宇宙」、第5章「視ることの幸福」と章立てはなかなか大掛かりである。
出品作品はじつに多岐におよぶ。大分の画家、片多徳郎の抽象画にはじまり、ピカソ、マティス、ダリ、ミロ、カンディンスキー、ポロックといった海外の巨匠たちから青木繁、坂本繁二郎、白髪一雄、吉原治良そして奈良美智といった日本人の画家たちまで絵画だけをとってもまさに百様だ。それにウィリアム・モリス、民芸、北大路魯山人、長次郎、三宅一生、イサムノグチらの工芸やデザインが加わって、撩乱と呼ぶにふさわしい賑わいを見せる。これほどの作品群をいかに見せるのか。会場では、予想もしない大胆な組み合わせの展示があちこちでみられた。第3章の会場の一角で、濱田庄司の鉢からふと目を移して尾形乾山の猪口にでくわしたときには不意をつかれた思いがした。そうかと思えば、第2章の会場では油絵の展示のなかに、石内都の写真作品《ひろしま》シリーズの数点が違和感なく佇んでいる。一度に見るのは勿体ないほどのラインナップだが、長谷川等伯の《松林図屏風》、雪舟の《山水図〈倣玉潤〉》、千利休の花入など、期間限定の展示替えの作品もあるというから何度でも足を運びたくなる。
大分県立美術館の館長に就任した、新見隆氏によると、視るということは野蛮な行為らしい。会場を巡り次から次へと視界に映る作品を追いながら、まだ視られる、もっと視たいと勇むような思いになったのは、知らず知らずに視ることへの本能的な欲望を刺激されていたからかもしれない。[平光睦子]

2015/06/05(日)(SYNK)

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柴田精一 新作展

会期:2015/05/30~2015/06/27

GALLERY YAMAKI FINE ART[兵庫県]

折れ曲がりのあるレリーフや、万華鏡のイメージを思わせる切り紙作品などで知られる柴田精一。本展では上述した作品の他、雀や猫をモチーフにした絵画作品を出品。絵画は、複数の筆が並ぶ特製品を用い、複数の同一モチーフを同時に描くという珍しい手法が取られていた。雀を咥えた猫を描いた絵画や、女性の顔の周囲を複数のカラスが飛翔するレリーフなど不気味な印象を与える作品もあったが、その背景には「神戸連続児童殺傷事件」(1997年)があるとのこと。犯人と同世代で神戸育ちの柴田があの事件から受けた影響の大きさに思いを馳せた。さらに驚愕したのは、本展の会期中に事件の犯人だった少年Aが単行本を出版したことだ。この不可思議な共時性は一体どういうことだろうか。

2015/06/05(金)(小吹隆文)

2015年07月01日号の
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