artscapeレビュー

2009年05月01日号のレビュー/プレビュー

興福寺創建1300年記念「国宝 阿修羅展」

会期:2009/03/31~2009/06/07

東京国立博物館 平成館[東京都]

巷で話題の阿修羅展。阿修羅像をはじめとする八部衆像、十大弟子像、四天王立像などが一挙に公開されている。それだけでも十分見応えがあるが、なおかつ展示の構成にたいへんな工夫が凝らされているため、来場者の興奮がいやがおうにも高まるようになっている。とくに阿修羅像を除く八部衆像と十大弟子を対面させて展示したり、その後暗いトンネルを抜けた先に阿修羅像を見せるなど、いちいち演出がドラマチックで、いやったらしい。一段高いところから見る阿修羅像は華奢で繊細な印象を与えるが、下から見上げると三面六臂の身体表現が醸し出す大迫力に圧倒される。さらに周囲360°から見回してみると、三つの顔の表情が刻々と変化していく様子が存分に味わえる。とりわけ、8時頃の方角から見る左側の顔は思わず息を呑むほど美しい。

2009/04/19(日)(福住廉)

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grow UP! Danceプロジェクト:石川勇太『Time Difference』/捩子ぴじん『sygyzy』

会期:2009/04/24~2009/04/26

アサヒ・アートスクエア[東京都]

若手振付家の育成を目指したプロジェクトが公募で選出した2人は、5カ月ほどの稽古や中間発表を経て応募作とはタイトルも内容も大いに異なる新作を発表した。
石川作品は、舞台奥に黒いテーブルと椅子が置かれ、コンロに火を付けると、紅茶を沸かしたり、ポップコーンを炒ったりと舞台美術が目立つ。とはいえ演劇的にはならず、あくまでそこからダンスを引き出そうとしていて、その姿勢に好感が持てた。オブジェが生む音と匂い、ダンサー同士の触れる、掴む、押すといった、シンプルなしぐさに、見る者の記憶が刺激される。5人のダンサーはいつも2人か3人で踊るから、他人との関わりが途切れない。舞台手前とテーブルのある奥とでレイヤーを分けた空間演出も、見る者のイメージを一元化させない。独特の暗さや重さ、水音やオブジェが振りまく匂いは、途切れなく複数の身体が繋がってゆく際の「ねちっこさ」を増幅させていた。もっとできるはずと思わせるものの、今後を期待させる個性が垣間見えていた。
捩子作品は、神村恵と福留麻里という名ダンサーを起用し、身の丈を超える板や1メートルほどの高さの4本の柱とともに、前代未聞のパフォーマンスを見せた。人間ブルドーザー?人間滑り台?人間トラック?人間リフト?踊る余裕を一切排除する「重労働」は、角度のついた板を滑るときが典型的なように、ダンサーの身体を気取りゼロの、物体に限りなく近い存在へと導いた。2人がL字型になって横たわり起きあがりまた床に寝そべるときなど、本当に板や柱と同等の単なる物体に見えてくる。可笑しくも怖しい光景。同じ動作の繰り返しは、労働の悪魔性を助長する。そう、これは悪魔的なダンスだ。捩子の悪魔的な徹底によってダンスは、楽器や絵筆を物として扱うのと同様に、ダンサーという道具を単なる物として扱う次元へ到達した。
grow up! Dance プロジェクト:http://gudp.exblog.jp/

捩子ぴじん「sygyzy」PV

2009/04/26(木村覚)

プレビュー:キレなかった14才♥りたーんず/ベップダンス

こまばアゴラ劇場/別府現代芸術フェスティバル2009[東京/大分]

今月から最後の一本はプレビューにします。
今月のお勧めは、東京では「キレなかった14才♥りたーんず」。すでに紹介した篠田千明の「アントン、猫、クリ」含め、二十代半ばの6人の演出家たちの作品が毎日上演されています。彼らの大胆なアイディアに未来の萌芽が感じられること必至です。4/16から始まっていて5/6まで、こまばアゴラ劇場にて。
キレなかった14才♥りたーんず:http://www.komaba-agora.com/line_up/2009_04/kr14.html

東京以外では、「ベップダンス」が要注目です。こちらもすでに4/11からはじまっています。毎週末公演が予定されていますが、とくに期待したいのは舞踏家・室伏鴻とボリス・シャルマッツのコラボレーション。シャルマッツは、昨年土方巽のテクストを用いたデュオダンスで話題を集めたフランスの振付家。若手とのグループKo & Edge Co.やソロでの公演で数々の伝説を生んできた室伏が異国の新進気鋭とどんな舞台を創造するのか、とても楽しみです。同時期に別府現代芸術フェスティバルでは現代美術・音楽などの展示・イベントも行なわれますが、ダンスもお忘れなく。
ベップダンス:http://www.mixedbathingworld.com/event/archives/item_109.html

2009/04/30(木村覚)

2009年05月01日号の
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