2018年10月15日号
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artscapeレビュー

幻の前衛写真家──大西茂展

2014年07月15日号

会期:2014/05/26~2014/06/07

表参道画廊[東京都]

本展は写真史家の金子隆一氏の企画で、「東京写真月間2014」の一環として開催された。大西茂(1928~94)の作品、20点がこのような形で公開されたのは初めてであり、「こんな写真家がいたのか!」という驚きを与えてくれる展示だった。この所、急速に進展している日本写真史の再構築に大きく寄与する展覧会といえるだろう。
岡山県出身の大西は北海道大学理学部で数学を学び、1953年に同大学卒業後も研究室に残って研究を続けた。一方で写真にも関心を持ち、55年になびす画廊で初個展を開催、56年の国際主観主義写真展にも出品する。57年には瀧口修造の企画によりタケミヤ画廊で第2回個展を開催する。同年『別冊アトリエ』や『フォト35』にも作品を発表するが、その後は墨象作家として活動するようになり、写真作品の発表は途絶してしまう。
大西の作風は、本展のタイトルにあるように、まさに1930年代に関西や名古屋で大きな盛り上がりを見せた「前衛写真」の衣鉢を継ぐものといえる。だが、シュルレアリスム的なコラージュやオブジェの構成を主流とする戦前の「前衛写真」とも微妙に違っていて、多重露光や現像液を刷毛のようなもので塗布する特殊な処理を多用する画面は、激しく、荒々しいエネルギーを発している。のちに、「アンフォルメル」を提唱したフランスの美術批評家、ミシェル・タピエが彼の墨象作品を高く評価したことでもわかるように、それらは写真という枠組から大きく逸脱していく要素を孕んでいたのだ。
この「遅れてきた(同時に「早過ぎた」)前衛写真家」の作品をどのように位置づけていくかは、今後の大きな課題だろう。また、1950年代という時代に、彼のような作家を生み出していく土壌があったことにも注目していかなければならない。「幻の」写真家は、大西の他にももっといそうな気がする。

2014/06/03(火)(飯沢耕太郎)

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