2018年06月15日号
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artscapeレビュー

荒木経惟「往生写集──顔・空景・道」

2014年07月15日号

会期:2014/04/22~2014/06/29

豊田市美術館[愛知県]

この欄でも荒木経惟の凄さについて何度も書いてきたのだが、豊田市美術館の「往生写集──顔・空景・道」を見て、今さらながら感嘆せずにはおれなかった。もちろん、いい仕事をしている写真家はたくさんいる。だが、写真家という存在のあり方を、荒木ほど全身全霊で全うし続けている写真家は他にいないのではないだろうか。
展示は2部に分かれていて、1963年の「さっちんとマー坊」から99年の「Aの楽園(チロ)」に至る第1部「顔・空景」の作品群は、ほぼ回顧展的な構成である。「地下鉄72」(1972年)、「裔像」(1978年)、「富山の女性」(2000年)など、これまで美術館での展覧会にはあまり出品されてこなかったシリーズも含まれているが、作品の選択、展示の仕方に意外性はほとんどない。
問題はむしろ第2部の「道」である。こちらは新作が中心なのだが、これまでの「荒木世界」を打ち壊し、再構築していくエネルギーの凄みに圧倒された。「遺作 空2」(2009年)、「チロ愛死」(2010年)など既発表の作品もあるが、2013年撮影の新作「道路」と「8月」は、表現者・荒木経惟の底力をまざまざと見せつける傑作である。新居から見下ろした路上を定点観測的に撮影した「道路」を見ていると、身近な光景が彼岸からの眺めのように見えてきて背筋が寒くなる。「8月」は金槌でカメラのレンズを叩き割って撮影した写真群。「フクシマを引きずって、フクシマがあったから、どうしてもどうしても素直に撮れない。だからレンズをぶっ壊す。ぶっ壊してそれで撮る」ということでできあがった作品だ。
前立腺癌の手術、右目の失明といった事態を受け入れつつ乗り切ることで、荒木の創作エネルギーはふたたび高揚期を迎えつつあるのではないだろうか。夏から秋にかけて、同じく「往生写集」のタイトルで開催される資生堂ギャラリー「東ノ空・P(鏡文字)ARADISE」、新潟市美術館「愛ノ旅」の展示も楽しみだ。

2014/06/10(火)(飯沢耕太郎)

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