2018年10月15日号
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artscapeレビュー

大西みつぐ「放水路」

2014年07月15日号

会期:2014/06/18~2014/07/01

銀座ニコンサロン[東京都]

荒川放水路は明治末から昭和初期に書けて掘り進められた人工の川。「放水路」といっても川幅はかなり広く、周辺には変化に富んだ風景が広がっている。
大西みつぐは、かつてこの川の近くに住んだこともあり、「放水路」は「河口の町」(1985年)、「砂町」(2012年)といった作品の重要な舞台ともなってきた。だが今回銀座ニコンサロンで発表された約50点の写真群(9月4日~17日に大阪ニコンサロンに巡回)は、ノスタルジックな「下町」のたたずまいを浮かび上がらせる前作とは、かなり肌合いが違う。のんびりと散策を楽しむ人々も写ってはいるが、ブルーシートのホームレスの家、焚き火の痕、放置されたゴミ袋など、至る所に荒廃の気配が漂う。写真展のコメントに「東日本大震災後の東京臨海部の風景が無防備に曝されていることへの焦燥感」と記しているのを見てもわかるように、作品全体を貫いているのは、どうやら沸々と煮えたぎる怒りの感情なのではないかと思えてくるのだ。大西が作品の中で、ここまで“政治性”をあからさまに表明することはなかったのではないだろうか。「放水路」を「日本の澱」の象徴として捉えようという姿勢が、くっきりと形をとってきている。
下町の、穏やかで、ゆったりとした雰囲気を掬いとった路上スナップを期待する大西のファンにとっては、肩すかしを食うような展示かもしれない。だが、その変化は「震災後」の写真のあり方を彼なりに引き受けていこうという決意のあらわれでもある。これから東京オリンピックに至る時期の東京の景観の変化を、どう捉えて定着していくかは、多くの写真家たちにとっての大事な課題となっていくだろう。

2014/06/22(日)(飯沢耕太郎)

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