2018年01月15日号
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artscapeレビュー

BODY/PLAY/POLITICS

2016年11月15日号

会期:2016/10/01~2016/12/14

横浜美術館[神奈川県]

「BODY/PLAY/POLITICS」という簡潔にして示唆的なタイトルに惹かれて展覧会へ。出品作家は6名。ロンドン生まれでナイジェリアに育ち、植民地支配をめぐるヨーロッパとアフリカの複雑な関係やアイデンティティの多層性を「アフリカ更紗」を用いて表現するインカ・ショニバレ MBE、マレーシア出身の女性作家イー・イラン、映画監督としても知られるタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン、現代ベトナムの都市をダイナミックに映し出すウダム・チャン・グエン。日本からは、ダイアン・アーバスや鬼海弘雄の系譜に連なる、特異な風貌の人物のポートレートを撮る石川竜一と、映像、インスタレーション、パフォーマンスなどにより、ナラティブの生成と解体を同時に試みるような作風の田村友一郎が参加している。それぞれの文化的背景や制作の文脈は一見バラバラで、展覧会としてはやや拡散して見えるが、インカ・ショニバレ MBE、イー・イラン、田村友一郎の3者の作品にフォーカスを当てることで、一つの焦点が浮かび上がってくる。それは、ジェンダー、とりわけ「衣服」「身体」といった装置を通して演じる(「PLAY」)ことで、ある社会的集団や、宗主国/植民地、占領国/被占領国といった集団(「BODY」)間で形成されるアイデンティティと、そこに内包されたジェンダー関係という政治性(「POLITICS」)である。
インカ・ショニバレ MBEの映像作品《さようなら、過ぎ去った日々よ》では、黒人の女性歌手が、ヴェルディ作曲のオペラ『椿姫』のヒロインである娼婦ヴィオレッタに扮してアリアを歌いながら、主が不在の館を彷徨う。彼女がまとうドレスの鮮やかなアフリカ更紗は、1960年代のアフリカ独立の際にアイデンティティの象徴として用いられたが、実際にはインドネシア由来の模様で、ヨーロッパで大量生産され、アフリカに輸入されたという複雑な性格を持つ。また映像には、フランスに勝利した大英帝国が覇権を強めるきっかけになったトラファルガー海戦で命を落とし、英雄となったネルソン提督の死にまつわる絵画が引用される。複数の女性と愛人関係を持っていたと言われるネルソン。ここで、黒人女性が演じる悲痛に暮れたヒロインは、西洋宗主国(=男性支配者)に経済的に依存し、性的にも搾取される「アフリカ」の擬人化と見なせるだろう。
一方、イー・イランの映像作品では、長い黒髪を垂らして顔を隠した7人の女性たちが、初体験、パートナーとの関係、結婚観、子どもを産むことは義務か個人の選択なのかについて、赤裸々に会話する。ここで、彼女たちの顔を覆い隠す黒髪は、プライベートであけっぴろげな発言を許容するモザイクのような機能を果たし、かつ女性性を強調するとともに、作家の出身国マレーシアの国教がイスラム教であり、人口の半数以上を占めるマレー系を中心に信仰されていることを考えるならば、「ベール」を暗示するとも読める。「男性の視線から髪を隠す」ためのベールそれ自体を「髪」で代替するという皮肉な転倒を戦略的に用いることで、彼女たちは、(タブー視されている)自らの「性」についての主体的な語りを取り戻すことができるのだ。
また、田村友一郎の映像インスタレーション《裏切りの海》は、「ボディビルディング」を軸に、複数の時空間や史実/フィクションの境界が曖昧に混ざり合う空間を形作っている。占領下の横浜を闊歩した米兵の肉体に魅せられ、日本におけるボディビルディングの第一人者となった人物の回想、彼から肉体改造の訓練を受けた三島由紀夫の小説、2009年に横浜の海中で見つかったバラバラ殺人事件、1972年にイタリアの海中で発見された古代ギリシアの戦士像。これらについての架空の会話が流れる会場には、男たちの社交場としてのビリヤード台が置かれ、映像内では黒ビキニ姿のマッチョな男たちがビリヤードに興じている。展示台に置かれた、作りかけのようなトルソや手足の断片化された彫像は、理想的な肉体美への憧れとその無残な解体を同時に示す。ここで、ミルク=精液の摂取によって強い肉体を手に入れることは、身体の鍛錬を通した西洋的な規範への服従とその内面化であり、その男性性の獲得への強烈な渇望は、「強いアメリカ」に組み敷かれた敗戦国としてのコンプレックスの裏返しをさらけ出す。
このように3者の作品に焦点を絞ることで浮かび上がるのは、他者の視線を内在化してしまうことでアイデンティティが演じられるという表象の力学の政治性とともに、そこからの逸脱や解体の企てである。

2016/10/17(高嶋慈)

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