artscapeレビュー
片桐飛鳥「Multiverse」
2016年11月15日号
会期:2016/09/30~2016/11/05
片桐飛鳥が、前回PGI(フォト・ギャラリー・インターナショナル)で個展を開催したのが、2005年、つまり11年も前だということを聞いてびっくりした。いまも鮮やかに印象に残っている展示であり、つい最近の出来事であるように思えるからだ。それは、あっという間に賞味期限が切れてしまう作品と違って、片桐の仕事が、永くみずみずしい生命力を保つことができるということの証明とも言える。
東京・南麻布のKANA KAWANISHI GALLERYで開催された今回の展示の中心になっているのは、前回と同じく「Light Navigation」のシリーズ(12点)である。このシリーズは「宇宙空間を経てようやく地表に届いた太陽の光を直感を指標に、そのままフィルムに留める形」をとっている。微妙なグラデーションの同心円の姿で定着された光彩は、一点一点が異なっており。それらを眼で辿っていくうちに時空を超えた世界に引き込まれていくように感じる。作品に付された番号は、すでに240番台に達しており、片桐が粘り強く、緊張感を保ちながら作業を進めていることが伝わってきた。
さらに注目すべきなのは、会場にここ数年のあいだに撮影されたという新作も数点並んでいたことだ。そのうち「21_34」は花火を、「Light of the Light」は波をテーマに撮影している。これらを見ると、片桐の関心が太陽光だけでなく、遍在する光のさまざまな様相に向きつつあることがわかる。ミニマルで禁欲的なたたずまいの「Light Navigation」の連作に加えて、より多様でふくらみのある作品世界がかたちをとりかけているのは、とてもいいことだと思う。
2016/10/18(火)(飯沢耕太郎)