2018年04月15日号
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artscapeレビュー

2016年10月01日号のレビュー/プレビュー

毒山凡太郎「戦慄とオーガズム」

会期:2016/08/27~2016/09/24

駒込倉庫 Komagome SOKO[東京都]

キュンチョメと同じく、近年目覚ましい活躍を見せている毒山凡太郎の個展。同じ会場の2階で、旧作と新作あわせて6点の作品を発表した。いずれも同時代の社会問題と彼自身との距離感を感じさせる作品ばかりで、大変見応えがあった。明らかに毒山は今回の個展で新たなステージに飛躍したように思う。
先ごろ強制撤去された経済産業省前の脱原発テント村を主題にした《経済産業省第四分館》や高村光太郎の妻、高村智恵子が残した言葉「ほんとの空」を叫び続ける《千年たっても》など、出品された映像作品の大半はすでに発表されたものである。しかし、週末深夜の駅構内で酔いつぶれた酔客に企業のロゴで象った日の丸をやさしく被せる《ずっと夢見てる》は、同じコンセプトで制作された過去の作品を適切なかたちでアップデートしたものだ。前作は肝心のロゴが映像ではよく確認できなかったが、今回の作品ではカメラの画角やパフォーマンスを丁寧に心がけることで、その難点をみごとに克服していた。
なにより傑出していたのが新作《これから先もイイ感じ》である。映像に映されるのは土間に座り込んで泣き続ける赤ちゃんと介護施設のトイレで毒山自身の手を借りつつもなかなか立ち上がることのできない入所者の御老人。いずれも、立つことがままならない。人間の条件のひとつが立ち上がる運動性にあるとすれば、両者はともに人間の条件から大きく逸脱していることになる。しかし、双方はともに人間であれば誰もが通過せざるをえない現代社会の両極なのだ。
だが、毒山は誰もが眼を背けがちなそのような社会の盲点を私たちに突きつけるだけではない。毒山自身が介護施設の職員として日々労働しているという背景を知らずとも、この映像は私たちに非常に大きな衝撃を与えてやまない。映像の前には、その赤ちゃんの足を象ったいくつかの石膏がまとめて吊り下げられていたが、いずれも赤く染まっている。映像の終盤、毒山自身がその血塗られたかのような石膏の足をひきずりながら、黄昏時の海岸を無言で歩いてゆくのだ。一直線に伸びる路の向こうにゆっくりと消えてゆく毒山。それは、生まれてくる未来の子どもたちと、やがて死にゆく老人たちとを両肩に背負いながら、それでもなお前進していかねばならない現在の私たち自身の自画像ではなかったか。映像に染みわたる夕暮れの光が、やるせないほどの寂寥感と絶望感、そしてほんのわずかの力強さを浮き彫りにしていた。私たちに希望があるとすれば、それは血によって彩られているのだろう。

2016/09/15(木)(福住廉)

現代日本のパッケージ2016

会期:2016/09/17~2016/11/27

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

第55回ジャパンパッケージングコンペティション(一般社団法人日本印刷産業連合会主催)、2016日本パッケージングコンテスト(公益社団法人日本包装技術協会主催)の受賞作品、および『JPDAパッケージデザインインデックス2016』(公益社団法人日本パッケージデザイン協会刊)から選ばれた作品による、最新のパッケージの数々が並ぶ展示。
私たちが日々購入する商品はなんらかのパッケージによって梱包されている。人々はパッケージのデザインによって目当ての商品を見つけ、あるいはパッケージのデザインによって新たな商品の存在を知る。パッケージには店頭で消費者に商品を手に取ってもらうためのさまざまな工夫、仕掛けがなされている。パッケージデザインに求められるのは、プロモーションとしての要素だけではない。開封・密封のしやすさなど使い勝手の改良や、環境に配慮した簡易包装やリサイクルしやすい素材の使用など、そこには解決すべきさまざまな課題があり、それに対する回答、進化の姿を見ることができる。例えば、ヱスビー食品の和風香辛料改良キャップ(2016日本パッケージングコンテスト・アクセシブルデザイン包装賞)は、旧キャップが数回転させなければならなかったのに対して、改良キャップは2分の1回転でカチッという音がして密封される。表面的には新旧の違いは分からない。日清クッキングフラワー(ジャパンパッケージングコンペティション・経済産業省製造産業局長賞)は小型のボトルで、蓋の半分には穴が開いて調理素材に振りかけることができ、もう半分には計量スプーンが入る穴が開いており、2通りの方法で少量の小麦粉を使いやすいよう工夫されている。資生堂・クレ・ド・ポー ボーテ ラ・クレーム(2016日本パッケージングコンテスト・アクセシブルデザイン包装賞)は、レフィルによって樹脂使用量を約73%削減しているという。カットグラスのような本体の美しさと、交換作業が容易なレフィルの構造、素材使用量の削減という複数の課題に同時に応えたパッケージデザインだ。
『JPDAパッケージデザインインデックス2016』からは、シズル表現をテーマにセレクトしたパッケージが並ぶ。シズル感といえば、内容物のみずみずしさなどをヴィジュアルで表現することが一般的だが、ここでは写真やイラスト以外に、文字や形態によってシズル感を表したパッケージが並び、その表現の多様性にとても新鮮な印象を受けた。
新旧パッケージを並べて改良点を示すなど、展示はとても分かりやすい。デザインに関わる者はもちろんのこと、一般の消費者にも有用な展覧会だ。パッケージデザインにどのような工夫がされているのかを知れば商品を選ぶ目線が変わる。消費者の目線が変わればパッケージデザインはさらに進化するはずだ。[新川徳彦]

2016/09/16(金)(SYNK)

未知の表現を求めて ─吉原治良の挑戦

会期:2016/09/17~2016/11/27

芦屋市立美術博物館[兵庫県]


関西に住んでいると、美術館で吉原治良の作品に出合う機会が多い。そのせいか、彼の主要作品を知っている気になっていたが、本展を見てそれが浅はかな思い込みだと分かった。本展は、芦屋市立美術博物館と大阪新美術館建設準備室(以下、大阪新美)のダブル主催だが、出展数約90点のうち約2/3が大阪新美のコレクションで、大阪新美が吉原作品をまとめて公開するのは2005年の「生誕100年記念 吉原治良展」以来だという。しかも初公開の作品が約20点もあるというのだから、筆者以外にも驚いた人は多いと思う。展示は年代順に構成され、戦前から終戦直後の作品に見慣れないものが少なからず含まれていた。展覧会のクライマックスは具体美術協会結成から晩年に至る期間だが、ここでの導線が少々ややこしく、先に最晩年の展示が見えてしまうのが惜しい。しかし、展覧会としての充実度は高く、優れた回顧展としておすすめできる。

2016/09/16(金)(小吹隆文)

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2016 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展

会期:2016/08/20~2016/09/25

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

絵本の原画「イラストレーション」のもつ力はすごい。作品を見ながら微笑んでしまう展覧会はなかなかないからだ。本展は、イタリアのボローニャで開催されている子どもの本専門の国際見本市の催しとして始まった、併設コンクールの全入選作を集めた展覧会。さらに今年は記念すべき50回目を迎え、ボローニャ展50年の歩みを各年の図録と年譜で振り返る展示もされている。
今回は61か国3,191点の応募の中から77名が選出され、うち日本人は10名という快挙である。日本の入選作には、墨を効果的に使ってユニークなキャラクター造形をしたもの、あらかじめキャラクターを万年筆や絵具で描いて点線で切り取れるようにして、それらを組み合わせて街の様子を再構成したアイディアのもの、「色」のイメージから敷衍して世界の都市風景を表象したものなど、独特な感性が目立った。展示作品は5点一組になっているから、一つひとつに物語があり、短い絵本を見るようで楽しい。時代を感じるのは、デジタル作品が意外に多かったこと。手仕事と組み合わされて、表記されなければわからないほど、繊細で柔らかな質感があるものもある。そのほか、刺繍や木版画の素朴なものまで、イラスト技法の多様性にも目を瞠った。[竹内有子]

2016/09/17(土)(SYNK)

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プレビュー:「ロケーション・ハンティング」ヤマガミユキヒロ展

会期:2016/10/01~2016/11/27

あまらぶアートラボ A-Lab[兵庫県]

実景に基づくモノクロの風景画を描き、その画面上に同一地点で定点撮影した映像を映写する「キャンバスプロジェクション」の作品で知られるヤマガミユキヒロ。彼は昨年にあまらぶアートラボ A-Lab(兵庫県尼崎市)のオープニング展「まちの中の時間」に参加したが、同展の参加者は翌年に尼崎市をテーマにした新作を披露することになっており、本展がその機会に当たる。これまでは主に京都や東京の風景を素材にしてきたヤマガミだが、工業都市のイメージが強い尼崎市からどのような作品を紡ぎ出すのか。約1年間にわたるフィールドワークの成果に期待している。

2016/09/20(火)(小吹隆文)

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