2019年09月01日号
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artscapeレビュー

華麗なる日本の輸出工芸──世界を驚かせた精美の技

2011年06月01日号

会期:2011/04/29~2011/07/03

たばこと塩の博物館[東京都]

展示されている品々は、漆工であっても陶磁器であっても、ふだん美術館で優品として展示される工芸品とは印象を異にする。大胆な構成の貝細工、寄せ木のトランプケースやチェステーブル、会津漆器の十字架や聖書書見台など、意匠はもちろん、用途の面でも、見慣れた工芸品とは違う。これらは、おもに明治期から昭和初期にかけて海外向けに生産された装飾工芸品。日本の工芸品ではあるが、日本人のための品ではない。伝統的な技術が用いられているにもかかわらず、違和感を覚える理由はそこにある。
殖産興業の一環として明治政府が日本の工芸品輸出を奨励していたことは良く知られているが、工芸品には直接輸出されたものばかりではなく、箱根などの観光地で外国人旅行者向けのお土産品として製造販売されていたものも多い。製造業者は本来の産地から離れ、輸出港である横浜や、消費地である観光地の周辺に集積し、海外での需要に応え、外国人旅行者の嗜好に沿った製品をつくっていた。欧米の人々の好みに合うように意匠は大胆に構成され、飾り棚などの大物は運搬を容易にする構造上の工夫もなされていたという。
用いられた技術は必ずしも一流ではない。美的にも日本人の嗜好には合わないと思われるものも多い。しかしながら、ここに見られる品々は優品として遺されてきたものよりもずっと普遍的な日本の工芸品生産の結果であり、明治以降、否、それよりもはるか以前から、マーケットを志向せずしては存立し得ない工芸の本来の姿を伝える貴重な史料である。
出品されている約200点の作品は、すべて日本輸出工芸研究会会長の金子皓彦氏が長年にわたって内外で集めてきたコレクションのほんの一部である。氏のコレクションは寄せ木細工だけでも25,000点に及ぶという。蒐集にかける情熱に驚嘆させられる展覧会でもある。[新川徳彦]

2011/05/15(日)(SYNK)

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