artscapeレビュー

岩渕貞太『雑木林』

2011年10月01日号

会期:2011/09/09~2011/09/10

アサヒ・アートスクエア[東京都]

1時間ほどのソロ作品。岩渕貞太は、中間状態を保ちながら舞台に居続けた。つねに肘や膝が曲げられ、手前にあった動作と次の動作の間に一貫して「待ち」の状態がキープされていた。なにかが起こりそうという「スリル」への期待が温存され、時が進む。動きの強弱大小の点でも中間状態は保たれた。微動でもなくダイナミックな旋回や跳躍でもなく、するするとかたちが変化しながら、ときに見る者をはっとさせるポーズや動きの流れに結晶する。ソロだからと言って一本の「木」ではなく、かといって壮大な「森」へ向かうのでもなく「雑木林」を目指す岩渕の意図は、掴めた気がした。とはいえこの「雑木林」の見所がどこかがわからなかった。今月とりあげている山下残の『庭みたいなもの』もそうであるように、ダンスのタイトルに「環境」を意識させる言葉を当てるひとつの傾向があるように思う。しかし、なんらかの環境が呈示できたとしても、それを生みだすのが作為である限り、自然そのものの豊かさ・強烈さには遠く及ばない、なんてことのほうが多いはず。中間状態にとどまるという作為が、思いがけない間だとか動きだとかが豊かに生じる可能性を削いでいるように見えるのは、そういう意味で気になるのだ。もっと岩渕の自然というか、脳の働きというか、妄想の質というか、岩渕の作為から漏れ出る部分が見てみたい。それには、漏れの余地をつくる作為の妙が必要だ。異様な色の花が小さくてもひとつ咲いてはじめて雑木林はただの雑木林ではなくなる。

2011/09/10(土)(木村覚)

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