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ミクニヤナイハラプロジェクト No5『前向き!タイモン』

2011年10月01日号

会期:2011/09/01~2011/09/04

こまばアゴラ劇場[東京都]

ともかく速くて、速くて、速いのだ。セリフはもちろんのこと、ダンスの振付家でもある矢内原美邦らしく、演劇でありながらセリフ内容とはほとんど関係ない動き(振り付け)もすべて、役者三人の役者のパフォーマンスは唖然とするほどに速い。この傾向は、矢内原が演劇を上演し始めた頃から、おそらく『3年2組』(2005)のときからある。だから演劇五作目を見る観客にとって了解ずみのことではある。しかし、それにしても、速い。速くて、しかも噛まない。速くて噛む、ということが当初はあった。噛む=身体の不能状態を露呈させる=身体のリアリティをあらわにする、といった解釈は当初はありえたが、いまその余地はない。速くて噛まない。すると、速さのもつ独特のグルーヴが強く感じられてくる。意味が理解できるかできないかの境で高速連射される言葉たち。ああ、なんだかこの感覚あれに似ている!と思った。「あれ」というのは、早口なアニソンたち。「もってけ!セーラーふく」(『らき☆すた』)でも「Utauyo!! MIRACLE」(『けいおん!』)でも「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」(『日常』)でもいいんだけれど、こうした曲の早口部分を聴くときのなんともいえない快楽、聞き取れそうで聞き取れないあたりで耳が漂う快感、それに近いなにかを、役者三人の演技に感じたのだ。近年、早口のアニソンが当たり前になったもとには、おそらく初音ミクの存在があるのだろう。機械的な再生のテクノロジーが早口の面白さを引き出したに違いない。とはいえ機械ではなく人力でそれをやるところに独特のグルーヴが(より濃厚に)生まれると人が考えているからこそ、そうした音楽は全面的に初音ミク化されずにいるのだろう。矢内原の演劇で感じるのも人力の面白さ。それにしても、はじめから終わりまで、延々と早口なのだ。舞台上の光景はもちろんのこと、演劇に「振り付け」のみならず「早口」という強烈なアレンジメントを組み込む、矢内原の強引で暴力的な発想に、観客は唖然としてしまうのである。

ミクニヤナイハラプロジェクトvol.5「前向き!タイモン」予告編

2011/09/04(日)(木村覚)

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